今はない「湧水」の地図記号とは?温泉記号のゆらぎの向きは変化していた?地図記号の知られざる歴史と豆知識!
地図を読む上で欠かせない、「地図記号」。2019年には「自然災害伝承碑」の記号が追加されるなど、社会の変化に応じて増減しているようです。半世紀をかけて古今東西の地図や時刻表、旅行ガイドブックなどを集めてきた地図研究家の今尾恵介さんいわく、「地図というものは端的に表現するなら『この世を記号化したもの』だ」とのこと。「温泉マークに法的拘束力はないので、『私が描く地図ではこれが温泉記号』と勝手に宣言しても問題ない」そうで――。 【地図】湯気がまっすぐだった頃の温泉マーク * * * * * * * ◆「湧水」の地図記号 温泉・鉱泉以外の湧水もかつては記号が定められていた。 日本で初めての地形図である2万分の1「迅速測図」に「水源」として登場している。 記号の形は小さな池から川が流れ始まった描写で、関西地区で始まった2万分の1「仮製地形図」にも引き継がれた。 その後はオタマジャクシ形となり、その後はすべてこの形の記号を「湧泉」として「昭和30年図式」まで継続した。 最後のは3色刷なので記号も青色である。
◆ドイツに学んだ記号 この記号は日本が多くを学んだドイツの地形図に由来するらしく、あちらでは現在もほぼ同じオタマジャクシ形が用いられている。 残念ながら日本の「湧泉」記号は消えたが、大正6年図式の運用方法を記した陸地測量部(国土地理院の前身)の『地形図図式詳解』(昭和10年改訂)によれば、湧泉を「著シク水ノ湧出スルモノヲ示スヘシ。但(ただし)図上ニ於テ識別シ得ル池或ハ井等アルトキハコノ記号ヲ描カス」(原文は句読点なし。以下引用文は同様)としている。 オタマジャクシ記号が描かれるのは、図上に描かれるような大きさの池などが存在しない場合のみだ。 温泉に似た記号に「噴火口・噴気口」があるが、これは活火山などで噴煙を上げているものに適用される。 記号は温泉が縦向の揺らいだ湯気なのに対して、こちらの記号は水平の短線を5本重ねた記号だ。