SNSで巻き起こる「議論」をリアルタイムで整理する。これは「革命」か、それとも「ハック」か?
誰もがインフルエンサーになれる時代、「バズ」で社会はどう変わる?ネット文化から現代の「空気」を鋭く分析した、竹田ダニエルさんの新刊『SNS時代のカルチャー革命』。作家の安堂ホセさんに、本書の魅力を読み解いていただきました。書評「「革命」と「ハック」を整理する」を『群像』2025年1月号より再編集してお届けします。
アメリカ社会の「リアル」
本書は群像での連載「世界と私のAtoZ」をまとめた書籍で、2023年から2024年にかけてのアメリカ社会と、その社会をSNSによって動かそうとした人々の軌跡を捉えている。 著者の既刊書である2022年の『世界と私のAtoZ』と2023年の『#Z世代的価値観』では、タイトルが示すように、メインにあったのはZ世代のリベラルな若者たちが提示する価値観だった。例えば社会の中で自分をどう位置付けるか、どう自分の尊厳を維持するか、どんな基準でものを消費し、情報を選ぶか、といった点にフォーカスが当てられていた。日本語圏の読者のなかには、竹田ダニエルの紹介する彼らの価値観に刺激や共感を抱いて、生き方の参考にした人も多いのではないかと思う。 『SNS時代のカルチャー革命』ではまず、2020年代が半分過ぎようとしている今、アメリカのリアル空間がどれほど生存困難な環境となってしまったかを伝えてくれる(1章〈サードプレイスの消滅〉)。 物価の高騰でレストランや映画館は気軽に使える場所ではなくなり、パンデミック以降に多くの飲食店が潰れた。これは程度こそ違っても、日本在住の人にとっても他人事でない問題だと思う。ただでさえ人の居場所がない都市や郊外で、マイノリティはさらに抑圧され、だから彼らはSNSを使って自分たちの人生をマシにするための「革命」を起こしていく。 でもこれは「弱者さんがピンチをチャンスに変えました」的なポジティビティで回収できる規模を超えている。厄介なのは、これまでマジョリティであった人々、そしてそのどちらの要素も部分的に持っているような大多数の人々が、こうしていっせいに窮地へおいやられたときの反応だ。彼らは社会そのものを変えるための「革命」ではなく、それによく似た手法で、いかに他人を出し抜いていくかに全振りした「ハック」を推し進めていく。