認知症の家族から「私の物を盗ったでしょ!」と疑われるのは<信頼されている証>?解決策は「不安な気持ちに寄り添ってなくし物を一緒に探すこと」
◆「疑われる」ということは、介護を頑張っている証 画面越しに見る次女さんは、介護疲れなのか、肌つやも悪く、髪もボサボサ。 5歳年上の長女さんのほうが、むしろ若々しく見えます。 「母は、私のことがもともと嫌いなんですよ……」 そんな痛切な言葉を口にする次女さん。 聞けば、平井さんは、日中に来てくれるヘルパーさんのことは絶対に疑わないそうです。ニコニコと愛想よく振る舞い、なぜか次女さんにだけキツく当たり、疑いをかけてくる。それは結局、お母さんが自分を嫌っているからだ――。 涙をこらえて説明する次女さんに、私は言いました。 「それは、お母さんが誰よりもあなたを信頼しているからですよ」 「物盗られ妄想」は、記憶障害によって、どこにしまったかを忘れていることが大半です。平井さんは、化粧品やお金を自分で使ったことを忘れてしまいました。 そこで「誰かが盗った!」と妄想が始まるのですが、一方では、頭の中があいまいになっていることで「また自分が忘れてしまったのかもしれない」という不安もせめぎ合っています。 そのため、疑いをかける人物には、自然と「信頼しているから、困っている私を助けてほしい」「もし間違っていても許してほしい」という思いを抱えています。 つまり、「疑われる」ということは、介護を頑張っている証。 むしろ、自分を褒めてあげてもいいくらいです。
◆「物盗られ妄想」に直面したら 実際、長女さんは、献身的に介護をしてくれる次女さんへの感謝の言葉を平井さんがたびたび口にするのを聞いていました。 私の説明と、姉から母の感謝の言葉を聞かされた次女さんは、 「嫌われているとばかり思っていたのに、まさか信頼されていたとは……」 と、安堵の表情とともに涙を流していました。 「物盗られ妄想」に直面した場合、まずは1回、深呼吸。 「自分が信頼されているからこそだ」ということを再確認してください。 そして、本人にかける言葉は「それは大変だね」「困ったね」です。 否定も肯定もせず、パニックになっている気持ちそのものに寄り添います。 そのうえで「一緒に探そうか?」と、なくし物を一緒に探してあげてください。 最後にどこで使ったか、いつもどこに片づけるか、ないことにいつ気づいたか、なにをしようと思っていたかを聞いてあげましょう。 うなずきや相づちを打ち、全面的に協力するという態度を示します。