【社説】健康食品の制度 「事業者任せ」抜本改善を
経済成長重視で事業者の負担軽減を優先するあまり、消費者の健康を守る体制が脆弱(ぜいじゃく)な制度設計になっていたのではないか。 小林製薬の「紅こうじ」サプリメントによる健康被害を受けて、消費者庁が機能性表示食品制度の問題点の洗い出しと改善に乗り出した。 医療関係者らで構成する専門家検討会の協議を踏まえ、政府は今月末をめどに方向性を取りまとめる方針だ。 小林製薬の健康被害では5人の死亡が判明し、延べ270人以上が入院した。原因特定にはなお時間がかかる見通しだが、現時点で鮮明になった制度の不備がある。 被害の発覚後、機能性表示食品のサプリ市場は前年同期比で1割近く縮小した。健康食品に対する国民の不安と不信を払拭するために、事業者任せの色合いが濃い制度の抜本的な見直しが必要だ。 消費者庁が機能性表示食品の届け出がある約1700事業者を対象にした緊急調査によると、計35製品で147件の健康被害報告があった。小林製薬以外の死亡例は確認されなかったものの、入院するなどの重篤な症状があった。 健康被害を報告していなかった事業者は、いずれも「消費者庁への報告は不要と判断した」と回答したという。小林製薬による報告も最初の被害把握から2カ月余りを経てからで、被害拡大を招いた一因とされている。 現行制度の指針は、健康被害に関して「発生および拡大の恐れがある場合は、消費者庁へ速やかに報告する」としているが、どの段階で報告すべきかの基準は明確でなく、義務付けしてもいない。そこに落とし穴があった。 日本が参考にした米国の制度は、重篤な健康被害の情報を入手してから15日以内に政府機関へ報告することを義務付けている。日本でも具体的な報告義務を早急に法律で規定すべきだ。 機能性表示食品の制度は2015年、規制緩和を進める当時の安倍晋三政権の成長戦略「アベノミクス」の一つとして始まった。 事業者は文献などの資料を科学的根拠として消費者庁に届け出れば、コレステロールや血圧を下げるといった機能性(効果)を製品に表示できる。国の審査はない。 手続きが厳格だと事業者が参入しにくくなる、との配慮があったとみられる。狙い通りに市場規模は急拡大し、18年からの5年間で3倍超となる7千億円近くに膨らんだ。 一方で、当初から「安全性や品質確保が事業者任せになっており、厳格なルール導入が必要」との指摘が消費者団体などから出ていた。 先週開かれた専門家検討会では、医薬品にも適用される製造、品質管理の指針(適正製造規範)に基づく管理を義務化する必要があるとの認識で一致した。当然である。制度の根幹部分にメスを入れなければならない。
西日本新聞