ブリング・ミー・ザ・ホライズン、サマーソニックで示した「孤独を共有する」新時代のヘッドライナー観
ジャンル横断的なコミュニケーション力
以上のような表現力とはまた別に、BMTHのヘッドライナー抜擢は、音楽シーンの現状やジャンル史の流れを考えてもぴったりハマるものだった。今回のセットリストは『Sempiternal』(2013年)と『That’s the Spirit』(2015年)、『POST HUMAN: NeX GEn』(2024年)からの曲がメインになっていたが、そのどれもが、デフトーンズのようなバンドや2000年代のエモからのエッセンスを受け継ぎつつ、他の幅広い音楽からの影響も取り込んで発展してきたものだ。そしてそれは、Y2Kリバイバルが活況を呈する一方で、メタル的な音響感覚がヒップホップ方面からも注目されて広く定着し、TikTokでシューゲイザーが話題になってデフトーンズやその影響下のサウンドが熱い支持を得ている現況において、時代の音ど真ん中とさえ言えるものになっている。 かくのごとく豊かな文脈を湛えたBMTHの音楽は、ダークで仄暗いが漆黒ではなく、何色と合わせてもうまく映えるために、様々なジャンルのアクトが一堂に会するフェス(今年のサマソニは特にそういう傾向が顕著だった)にとてもよく合う。オーロラが客演した「liMOusIne」や、BABYMETALが客演した「Kingslayer」は、そうしたジャンル横断的なコミュニケーション力を象徴するものでもあった。今回のBMTHは、特定の音楽スタイルとスター性で圧倒するかつてのアーティスト群とは別の、新たなヘッドライナー観を示したのではないか(BMTH自身もスター性のあるバンドだが)。これは、ヘッドライナーの世代交代と同じくらい意義深いことだと思う。 もちろん、ここまで述べてきたことは今回のライブそのものが素晴らしかったからこそ成り立つ話でもある。自分が観た東京2日目では、マリンスタジアムのアリーナいっぱいに熱心なファンが集まり、スタンドも程よく埋まって盛り上がっていた。この日はタイムテーブルの被りが厳しく、タイラやIVE、BE:FIRSTなどの間で観客の動きが大きく割れたことを考えればBMTHも十分な入りだったと言えるだろう。パフォーマンスの出来栄えはそれ以上で、スタジアムだからこそ発揮できる表現力を十全に堪能させてくれた。またこのような景色が実現することを願うばかり。BMTHもサマソニも、今後の展開がとても楽しみだ。
s.h.i.