【連載 大相撲が好きになる 話の玉手箱】第20回「予兆」その2
もしかすると人間は内臓から年をとるのかもしれない
やっぱり新型コロナ禍のせいでしょうか。 それとも単なる偶然か。 最近は、まったく先が読めなくなりましたね。 たとえば優勝力士です。 令和2年秋場所、正代が優勝するって、誰が予想しましたか。 その前の照ノ富士も、そうです。 でも、勝負の世界に生きる力士たちの第五感というか、察知能力はたいへんなものです。 多くの力士たちがいち早く変化の兆しを感じ取り、その対処法を講じます。 そうしないと、生き馬の目を抜くこの世界では生き残れないんですね。 そんな兆しや予感にまつわるエピソードです。 モンゴル出身力士の歩み~貴重なフィルムを掘り起こす【BBMフォトギャラリー22】 特盛で胃もたれ 力士にとって、食べることは稽古と一緒。人一倍、大きな体を作るためにも、相手を圧倒するエネルギーを生むためにも重要な要素だ。食えなくなったらおしまい、と言ってもいい。 年6場所制になった昭和33(1958)年以降、最も高齢の幕内力士は旭天鵬(現大島親方)の40歳10カ月だ。平成25(2013)年の夏、この旭天鵬は若い力士たちを連れて夜の街に飲みに繰り出した。暑気払いだった。ご機嫌で酔い、帰りがけになじみの牛丼店に立ち寄り、特盛を注文した。いつもの締めのメニューだった。もちろん、完食。すると、翌朝、みごとに胃がもたれていた。 「いやあ、驚いたよ。それまで何を食っても、胃もたれしたことはなかったんだ。年だね。思わずそばにいた付け人に頼んだよ。オレが食いたいと言っても、特盛だけは止めてくれってね」 と旭天鵬は苦笑いしていたが、もしかすると人間は内臓から年をとるのかもしれない。 旭天鵬がその長い現役生活にピリオドを打ち、引退したのは、2年後のことである。 月刊『相撲』令和2年11月号掲載
相撲編集部