「リミッターを超える境地にはもう行けないから」8・23後楽園で引退の中島安里紗
「時代が違うというか、私が好きだった女子プロはもうほとんどないんじゃないですかね」
確かにそうだ。Sareeeに敗れて1年余りが経つが、中島奪回の機運にはならなかった。外部流出のタイトルを死に物狂いで取り返しにいく姿が、彼女の最大の魅力と言っていい。JWP無差別級王座4度戴冠(さくらえみ、華名=現ASUKA、尾崎魔弓、木村響子から奪取)は、すべて他団体流出からの奪還で、所属人数が少ないとはいえ、SEAdLINNNGのシングル王座3度もすべて外敵(彩羽匠、水波綾、松本浩代)から取り返した。団体を背負い奮闘する中島に、ファンは夢を託したのだ。それらの試合すべてで、100%を超える闘いをやってきたのである。 「いろんな人と対戦してきて、いろんな人に勝ってきて、いろんなベルトを巻いてきた。それがSareeeに負けて目標がなくなったというか、モチベーションになるモノがなくなってきた部分があるんです。そこには、あのときのSareee戦がメチャクチャおもしろかったというのもあるんですよね。やっぱり、あれだけ殴り合える相手ってなかなかいないし、自分がやりたい闘いを全力でやったうえで負けてるので、Sareee頑張ってくれと思っちゃった部分がある。やり切った感があった? ハイ、そうですね。ただ、そのときはまだ(光芽)ミリアがデビューしていなくて、下の子を育てないといけないとか団体の事情もあって踏み切れませんでした。が、今年の初めにあのようなことがあって自分の身体を知り、120%でできないとわかった。なので、もう引退かなって」 無理をできるのがプロレスラーとの思いがあった。これまでも100%全力は当たり前で、リミッターを超える闘いをやってこそプロレスラーだと信じてきた。が、この先、それができる保証がないとわかってしまったのだ。 「リミッターをはずさないと見えないものってあるんですよ。そのリミッターを超える瞬間がおもしろくてやめられないんですよね(笑)。Sareeeとの試合もそうでした。そのときの境地が最高すぎる。それをまた経験したいの繰り返しで18年(笑)。だけど自分は、もうその境地には行けないんだと…」 中島は過去に一度引退を経験している。彼女によれば、引退したのではなく「あのときは逃げただけ」とのこと。3年のブランクを経て戻ってきたときから、近い将来、団体のエースになるとの予感を多くの人が抱いていた。その通り、中島は期待に応えJWPのエースに君臨、SEAdLINNNGでも世志琥、高橋奈七永のいないリングを守ってきた。 「120%の闘い」には、中島が背水の陣を敷く状況も含まれているのだろう。JWP時代、悲壮なまでに団体を背負う姿こそがもっとも彼女らしかった。それをSEAdLINNNGでも引き継いできた。欠場から復帰し、再びそんな姿が見られるものだとばかり思っていたからこそ、引退発表は衝撃的だったのだ。 「一生やるものだと思ってた人が多いみたいで」と苦笑する中島。前述したように、彼女のようなレスラーが引退するのは女子プロ界にとって大きな損失だ。「プロレスは闘い」と言う選手は多い。が、中島のようなスタイルで闘う選手が減少している感は否めない。 「正直、私のようなプロレスが求められていなくなってきてる部分があるじゃないですか。時代が違うというか、私が好きだった女子プロはもうほとんどないんじゃないですかね。だからもうやることないのかなという感じもあって。そこはやっぱり寂しいけど、時代だから仕方ないのかなとも思います。だって、プロレスだけじゃないじゃないですか。どこの業界もそうなってきてて、辛い仕事は機械やAIがやればいい。辛いことを乗り越えてこそ一流なのに、なんでも“なになにハラスメント”って言われちゃう。プロレスって非日常なのに、ほかと同じじゃ寂しいですよね。だからこそSEAdLINNNGでは、小さなものかもしれないけど、(ホンモノの)プロレスを残していきたいなと思います。それは新人や、いまいる2人の練習生に対してもそうだし、参戦してくれる選手にもです。参戦してくれる選手って、SEAdLINNNGだからこういう闘いをしなきゃという熱い思いを持って上がってくれるので、ボコボコにやり合っていい、自由にやっていいとわかってくれている。そこはこれからも残していきたいですよね」