「うま味調味料」問題も一刀両断!「エリックサウス」稲田俊輔は、なぜ日々食の悩みを解決し続けるのか
稲田さんは、なぜ日々、悩みや質問に答え続けているのだろうか。稲田さん本人に聞いてみたところ、この質問に答えることそのものが、稲田さんの中のさまざまな思考や行動につながっているようなのである。 「悩みや質問に答えるうち、どうも自分は人の質問に答えることが楽しいらしいという、そこに気づいたんです(笑)。朝起きてベッドに入ったまま、ウォーミングアップ的にそれをスマホでやるのが日課みたいになり、それが数集まったという感じです」 いきなり書けるものなのだろうか。 「僕は常に何かを考えている人間、しかもその考えることの大半が食べ物にまつわることで、それが当たり前になっているからなのではないでしょうか。 そして不思議なことに質問への回答だと書くのが早いんです(笑)。 たとえば3000字ぐらいのエッセイだと半日ぐらいああでもないこうでもないと悩むのですが、質問への回答は、スマホのフリック入力で寝転がりながら1時間ほどで3本ぐらい書けてしまいます」 ◆影響を受けたのは東海林さだおさん しかし、一口に「食べ物」のことといっても、たとえばメニュー考案と質問への回答の思考プロセスは異なる気もする。 「表面的には全然別系統だと思います。ただ、思考の奥底で、地下水脈のようなもので全部つながっていて、互いに影響を与え合っているということは感じます。だから、商売は商売、書籍は書籍といったふうに完全に別物となることは自分は絶対ないと思っています」 楽しいを追求した結果生まれた本。だから、苦労は「ほぼない」ということだ。 大喜利のお題的だったり禅問答のような展開になることもありそうだが、 「僕はどこかで人を笑わせたいという思いは常にあるんです。しかも、ゲラゲラではなく、ムフ、みたいな(笑)。だからそういう感じはちょいちょい出てる気がします」 本書の帯に文章を寄せたのは、漫画家・エッセイストの東海林さだおさん。そう、稲田さんのこの軽妙かつ飄々とした書き口、「しょうもない」食の疑問に真面目に向き合う空気、まさに東海林さんのエッセイの世界そのままのようでもある。実際、その影響は、 「大きいなんてもんじゃないです」 だそうだ。 「淡々とした筆致で笑わせようとする、そういう部分ですね。二字熟語、四字熟語のような硬い表現をあえて使いながら身近でくだらない話題を入れてくる。そういうふうに冗談で書いているのか真剣なのか分からないと思わせたい、煙にまきたい、そんな風に思っています」 稲田さんが日々悩みや質問に答えることは、自分にはない価値観に向き合うことにもつながる。 「世の中のいろんな価値観を否定したり変えようとするのは失礼だと思うので、僕はすべてポジティブに受け止めて吸収したい。普通だったらどうでもいい、くだらないと思われそうなことを考えている人たちが潜在的にこんなにいたんだなと思います。 僕の場合は、そういった自分とは違うベクトルもまず受け入れてみたい、ということが根本にあるので、そこが聞く人にとっても聞きやすいのかなという気がします」 そう、このなんでもいったん受け入れてみるという姿勢が稲田さんの根底に流れるものなのだろう。幼少期から「食」への好奇心は旺盛、さまざまな食に出会い受け入れ続けてきた。そして辿り着いたのが南インド料理というのはどういうことなのだろうか。