日本はインバウンドが爆発するまで「本当の意味での開国」を経験してこなかった…桁違いの<観光産業>にこの先対応できるのか アレックス・カー×清野由美
新型コロナで減った訪日外国人観光客も今や急回復。日本政府観光局(JNTO)によれば、2023年10月の訪日客数は、コロナ流行前の19年同月を既に上回ったそう。しかしその急増により、混雑などのトラブルが再び散見しています。「オーバーツーリズム」という言葉も今や広く知られるようになりましたが、実際その影響に悩まされている日本に足りないものとは? 作家で古民家再生をプロデュースするアレックス・カー氏とジャーナリスト・清野由美氏が建設的な解決策を記した『観光亡国論』をもとに、その解決策を探ります。 街が観光客で溢れようと「あの国が悪い」との論調に決して乗ってはいけない…その理由とは? * * * * * * * ◆新しいやり方を求められる観光業 日本の「観光業」には昔から典型的なスタイルがあります。会社の人たちや、町内会のおじちゃんおばちゃんが大勢で大型バスに乗って、大型旅館に泊まってワイワイ遊ぶという、旅行会社が仕切る大量生産、大量消費型のパターンです。 21世紀になって、そのパターンは“オワコン(「終わったコンテンツ」、つまりブームが去ったこと)”と化し、昭和モデルの大型旅館の廃業が相次ぎました。 しかしまだ宿泊や旅行業界ではそのスタイルを引きずっているところも多く、今の時代にマッチしたパターンに切り替わりきれていません。規制やルールの敷き方も、基本的にそのパターンのままです。 しかし、21世紀型産業としての観光業、特にインバウンドを前提にした観光業は、日本にとってまったく新しい領域です。誰も予想してなかったインバウンドラッシュの時代には、規制もマネージメントも、新しいやり方を創造的に考えていかねばなりません。 それは観光業の革命につながります。
◆「町家ステイ」はなぜうまくいったのか アレックス・カーは2000年代に、京都の旧市街に点在する伝統的な町家を改装して、一棟貸しの宿に転換する事業に取り組みました。 従来のホテルや旅館のように、いたれりつくせりのサービスを揃えるのではなく、お客さんに鍵を渡して、「どうぞお好きにお使いください」というスタイルは、このときに生まれたものです。 京都の風情ある町並みは、木造の町家が作っています。しかし、それらは今の時代に住むには古く、不便だということで、解体が急速に進んでいました。何とかその流れを食い止めることはできないかと、頭をひねった末に編み出した枠組みが、町家を一棟貸しする「町家ステイ」でした。 現在はインバウンドブームとともに、古い町家を宿にリノベートする動きが、京都だけではなく、全国に広がっています。しかし私たちが始めた当時、町家を宿泊施設として生かす事業が成功するとは、誰からも思われていませんでした。 周囲にいる京都の人たちは「お客さんは便利なシティホテルか、フルサービスの旅館かを好むから、どっちともつかない町家はうまくいかない」と、否定の言葉を投げてこられました。 ところがフタを開けてみたら、町家の宿は予約でいっぱい。海外からのお客さんが多いだろうと思っていましたが、「一棟貸しのスタイルでは来ないだろう」といわれていた日本国内のお客さんが多かったことは、運営側の私たちにしても予想外のことでした。 今振り返ってみると、あれはおそらく《オワコン》化していた観光業に対して飽きを覚え、新しいスタイルを求めているお客さんが多かったことの表れだったのかもしれません。
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