日本はインバウンドが爆発するまで「本当の意味での開国」を経験してこなかった…桁違いの<観光産業>にこの先対応できるのか アレックス・カー×清野由美
◆観光は桁違いの産業に拡大していく かつて携帯電話のドコモはiPhoneにずっと抵抗していました。しかし、ソフトバンクが「よし、やろう」ということでiPhoneを導入したら、みんながわっと飛びついて、最後にはドコモも切り替えざるを得なくなりました。現在の日本は世界の中でもiPhone のシェアが高い市場になっています。 2000年代のはじめにマーケティングの世界で話題になった言葉が「ティッピング・ポイント」です。 これは『ニューヨーカー』誌の記者だったマルコム・グラッドウェルの著書『ティッピング・ポイント―いかにして「小さな変化」が「大きな変化」を生み出すか』(高橋啓訳、飛鳥新社)のタイトルでもあり、「あるアイデアや流行もしくは社会的行動が、敷居を越えて一気に流れ出し、野火のように広がる劇的瞬間」のことを指しています。そこから転じて、現在では「臨界点」「閾値」という意味で、多く使われるようになっています。 いつの時代でも既存のシステムや勢力をぶち壊すような何かがないと、産業は活性化しません。 iPhone は、まさしく通信産業にティッピング・ポイントをもたらしました。世界の観光産業も同じく、ティッピング・ポイントを迎えています。 中国人観光客だけでも、すでに世界の観光地が大きな影響を受けているところに、今後はインド、中近東、南米、その他各国・各地域からの観光客が加わり、観光は桁違いの産業に拡大していくことでしょう。
◆今、本当の意味での「開国」が日本に求められている しかし、社会、経済、文化それぞれの分野では、その閾値超えに対する準備がまだできていません。 問題は日本だけでなく、世界各国に共通するものですが、とりわけ日本において注意すべきは、日本ではインバウンドが爆発的に増えるまで、本当の意味での「開国」を経験していなかったことにあります。 IT革命が本格化した20世紀末から世界の潮流は激変しましたが、日本は金融、通信、法律、行政、教育など、社会のあらゆる面で、システムのアップデートが遅れました。 既存の老朽化したシステムにサビが出て、埃がたまり、ガタが目立ち始めたところに、さまざまな国から、さまざまな人たちが、「旅行」「観光」という名目で流入。そのような入国インパクトを急に経験したことで、問題は一気に表面化しました。 自国に対する、外部からの有無をいわせぬ変化としての「開国」は、ほんの数年前に始まったばかりです。それが日本にとって、どれだけの衝撃であるかは、想像に難くありません。 それゆえ観光を有益な産業にするためには、十分な覚悟が必要となります。これまでとは違う対応、方策を、クリエイティブに考え、生み出していくことが重要になるのです。 ※本稿は、『観光亡国論』(中公新書ラクレ)の一部を再編集したものです。
アレックス・カー,清野由美
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