『虎に翼』吉田恵里香は寅子以外の人生も描き切る 『ぼざろ』でも発揮された人物描写力
1日15分、1週間で75分、それを半年間。朝ドラはこの独特な放送尺の中で、主人公の人生を描いていく。放送期間は長いものの、1話あたりの放送尺が短い朝ドラは、どうしても主人公を主体としたストーリーになってしまいがちだ。主人公以外のドラマが蔑ろにされてしまうことが少なくない。しかし、物語のなかに登場する人物にもそれぞれの人生があり、経験を元にして生まれる価値観や感情がある。主人公以外の人生も描き切るためには、物語全体を俯瞰し続ける構成力が必要になるのだ。 【写真】『虎に翼』は描写の積み重ねで女性たちの“地獄”を描いてきた 現在放送中の『虎に翼』は、主人公・猪爪寅子(伊藤沙莉)が「はて?」と感じる違和感や理不尽への怒りを軸としながらも、主人公の側で生きる人物たちのドラマも巧みに描き出している。これは、脚本の吉田恵里香の人物描写力と構成力によるものと言えるだろう。物語全体と登場人物たち全員を、大きな目線で捉えてストーリーを紡いでいる。 これまで『虎に翼』にはさまざまな女性が登場した。明律大学という一つの地獄を、寅子とともに歩いてきたよね(土居志央梨)や涼子(桜井ユキ)、梅子(平岩紙)、香淑(ハ・ヨンス)。そして、結婚して家庭に入る選択をした花江(森田望智)。彼女たちは自分の事情に基づいて行動を選択し、人生を歩んでいる。そういった彼女たちの逃れられない事情と葛藤が分かるように、印象的にシーンが組み込まれる構成になっているのだ。 例えば、花江とはる(石田ゆり子)の嫁姑としてのやりとりや、上野のカフェーのボーイとして働くよね、夫と長男から冷たい目を向けられる梅子などは、ストーリーで詳しく描かれる前に、これらを知らせるシーンがきちんと差し込まれていた。視聴者は、こういった描写の積み重ねから、彼女たちには彼女たちの地獄があることを理解し、彼女たちにどんな人生があったのかを考えてしまう。 女子部で共に学んだ学友が、それぞれの人生の選択をすることとなった第6週。寅子が弁護士になるまでの華々しい過程が描かれているのに、心がえぐられるほどの悲哀があったのは、吉田の脚本が寅子以外の人物たちの人生も丁寧に描いてきたからだ。