『虎に翼』吉田恵里香は寅子以外の人生も描き切る 『ぼざろ』でも発揮された人物描写力
幅広いジャンルを手がけてきた吉田恵里香
吉田は実写映画、ドラマ、アニメーション作品をバランス良く手がけている。韓国のWEBTOONを原作としたアニメ『神之塔 -Tower of God-』や、過去には少女漫画原作の『センセイ君主』の脚本を担当するなど、ジャンルの幅が広いのも特徴だ。 実写ドラマで言えば、『30歳まで童貞だと魔法使いになれるらしい』(テレビ東京)で吉田恵里香の名前を知った人が多いだろう。原作の魅力を損なわずに、リアリティを重視した脚色は原作ファンからも好評を得た。『恋せぬふたり』(NHK総合)や、『生理のおじさんとその娘』(NHK総合)など、マイノリティが抱える葛藤、またその周りに生きるマジョリティの事情についても描ききったオリジナル作品を世に送りだしている。『恋せぬふたり』から制作統括が、『生理のおじさんとその娘』からはプロデューサーと演出が『虎に翼』に参加しており、内容的にも『虎に翼』の前身と言える2作品だ。
『ぼっち・ざ・ろっく!』を名作にした構成力
実写、アニメを問わずさまざまなジャンルの脚本を担当しているのは、脚本技術に信頼があるからだろう。特に2022年冬に話題を集めた『ぼっち・ざ・ろっく!』からは、『虎に翼』にも生かされている“女性同士の関係性”を描くうえでの高い人物描写力と構成力を感じることができる。 アニメ『ぼっち・ざ・ろっく!』の原作は、女子高生がバンド活動に情熱を注ぐ姿を描いた4コマ漫画だ。根暗でコミュ障な主人公・後藤ひとりが、1人でギターを弾いていたところから、結束バンドのメンバーと出会い、バンドのギタリストとして、少しずつ成長していく物語だ。 原作のコメディの要素を損なわずに、青春スポ根ジャンルとしての魅力を強めてアニメ化できたのは、登場人物の感情がわかりやすくなるようなエピソードの入れ替え、セリフの付け足しなどの脚色があったからと言えるだろう。ドラム・伊地知虹夏の姉やライブハウスへの想い、ベース・山田リョウの過去に所属していたバンドに対する後悔や、ギターボーカル・喜多郁代のギター技術に対する引け目、ひとりへの尊敬の念など、それぞれの抱える葛藤や感情が深く伝わってくるのだ。 ひとりを主人公としながらも、他のバンドメンバーたちの感情を際立たせることで、結束バンドの関係性の発展や成長に説得力が生まれ、物語はより味わい深いものになっていた。原作ファンにとっても違和感なく、よりわかりやすくなるように構成された脚本は、『ぼっち・ざ・ろっく!』が高い人気を誇っている要因の一つだ。