『虎に翼』吉田恵里香は寅子以外の人生も描き切る 『ぼざろ』でも発揮された人物描写力
“女性同士の関係性”の描写の丁寧さ
女性同士の関係性という点で言えば、前述した『恋せぬふたり』でも主人公・咲子(岸井ゆきの)と親友・千鶴(小島藤子)の関係性が繊細に描かれている。咲子は千鶴に対して友情を、千鶴は咲子に対して恋心を持っていたことで2人は離れることになる。千鶴の気持ちがわからないまま離れたことに悩み、友達のままでいたい咲子の想いも、咲子に恋心をぶつけたくないと離れることを選んだ千鶴の想いも、丁寧に描写されていた。 2人の友情をしっかりと描きつつ、千鶴が咲子に恋心を抱いていることを自覚するシーンも差し込むことで、言いようもない苦しさを描き出していた。 吉田はこれまでさまざまな作品を通して、セリフやシーンの端々に人物像を描写し、より魅力的に人物の感情が伝わるように組み合わせる構成力を発揮してきた。『虎に翼』で、たった15分、週5回の放送尺のなかでも寅子以外の人物にも心が揺さぶられるストーリーを支えているのは、これまでの経験に裏打ちされた吉田の脚本技術によるものなのだ。 これまで『虎に翼』は、昭和初期に法曹界で生きた人や時代の流れ、当時の法律に翻弄された人たちのドラマを紡いできた。吉田恵里香は全話を通して何を視聴者に届けるのだろうか。
古澤椋子