慶大・岡田健人 最後に野球で恩返し はるか遠いガーナで伝授
<大学4年生、それぞれの夏(3)> 夏の甲子園も終わり、アマ野球界は再び大学野球がにぎわう秋が近づく。メディア露出が減る夏、大学野球の選手たちはどう過ごしているのだろうか。東京6大学野球リーグでプレーする大学4年生3人に8月、会いに行った。第3回は慶大・岡田健人投手(4年=慶応湘南藤沢)。彼は今、遠い異国にいる。 ◇ ◇ 慶大野球部を通じて、1通の中間報告が届いた。 「今回の活動を通して、子どもたちからあらためて野球の楽しさを教わっています。彼らが残りの期間でより成長できるよう全力で取り組んでまいります」 送り主の岡田は今、アフリカにいる。西アフリカにある共和制国家、ガーナ。慶大野球部関係者10人が、8月6日から9月6日まで滞在している。独立行政法人国際協力機構(JICA)との連携事業で、短期ボランティアとして派遣されている。10人のうち6人がアナリストを含めた現役野球部員だ。横浜に残って練習する部員にも「僕も行ってみたかったです」と、うらやましがる声がある。 OBの友成晋也氏が進めてきた「ベースボーラーシップ教育メソッド」が実践される場となる。今年から3年間、継続してこの時期に野球部員が現地に赴き、ガーナ人の野球指導者とともにチームを組み、国内の子どもたちに野球指導やライフスキルを育むアクションを起こす取り組みだ。 他のメンバー同様、岡田も立候補した。いろいろな思いがあった。 「アフリカという地がこの先の人生でなかなか経験できるところではないと思って、貴重な機会なので。自分は他のいろいろなプロジェクトにも参加したんですけど、どういう形で野球部に貢献できるかと考えると、ありだなと」 そして。 「大学4年生で野球を引退する身として、何か野球に恩返しのような形で残したいというふうに思って決意しました」 来年で100年になる東京6大学野球。全ての所属選手が神宮球場でプレーできるわけではない。投手の岡田も4年春まで、1度もリーグ戦でベンチ入りすることはできなかった。「実力的にはある程度見切りをつけるというか、選手として練習してるだけじゃ野球部への貢献にならないよなとずっと思ってたんです」。 就職活動も納得して終われた。あとはイチ野球人として何をするか。アフリカの子どもたちに野球を伝えることを、岡田は最終回のマウンドにした。 アフリカと野球-。この夏、何度かこのペアリングに接した。ガーナの近隣国、ナイジェリア人の父を持つ横浜隼人(神奈川)の沼井伶穏投手(3年)は「アフリカの難民の子どもたちのために水道を引きたい。だからいつかメジャーリーガーになって稼ぎたい」と夢見ていた。 伝え聞いた岡田は「自分は中学、高校ではもっと自己中で、自分が幸せならいいやって感じだったんですけど、それだけじゃ足りなくなってきて。誰かを幸せにする、社会のために何かをする、ということが生きがいになるっていうのが、たぶんその高校生の子は僕よりも早く気付いているんですね」と目を細めた。 高校の卒業式で恩師から「周囲が幸せじゃないと自分も幸せになれないよ」と言われ、今も鮮明に残っているという。はるか遠いガーナでの1カ月間はその第1歩。野球部の大学4年夏には、いろいろな形がある。 【金子真仁】(この項おわり) ◆岡田健人(おかだ・けんと)2002年(平14)4月18日生まれ。高校は慶応湘南藤沢(神奈川)で投手としてプレー。大学では4年春までリーグ戦登板なし。将来の夢は「不公平を減らしたい」。172センチ、75キロ。右投げ右打ち。