山梨県「富士トラム」を支える磁気マーカー技術! 実はトヨタグループによるものだった
万博採用技術が描く未来の交通網
山梨県知事は2024年11月18日の記者会見で、富士山5合目への来訪者増加による混雑緩和策として検討してきたLRTの導入を断念し、新たにゴムタイヤ式の新交通システム「(仮称)富士トラム」の採用を検討すると発表した。 【画像】「なんとぉぉぉぉ!」 これが新交通システムの「ルート」です! 画像で見る(計4枚) この新交通システムは、磁気マーカーや白線を認識して走行する仕組みを採用しており、法律上「軌道」として扱われる。これにより、一般車両の進入を規制し、訪問者の流れを制御することが可能になる。また、LRTに必要な軌道敷設の大規模工事が不要なため、コスト削減にもつながると説明された。 このシステムに使われる磁気マーカー技術は、トヨタグループの愛知製鋼(愛知県東海市)が開発しているもので、国内で33件の実証実験が行われている。さらに、2025年に開催される大阪・関西万博の自動運転バスプロジェクトでも採用されており、未来の交通網を大きく変える可能性を秘めている。 本稿では、この磁気マーカー技術のメリットとデメリットを整理し、自動運転技術が今後普及する上での課題とその解決策を探る。
磁気マーカーで自動運転実現
山梨県は2021年2月、「富士山登山鉄道構想」に着手し、富士吉田市から富士山5合目までの有料道路「富士スバルライン」にLRTの軌道を敷設する案を検討してきた。この構想では、富士山麓地域の6市町村で住民説明会を開催し、地域住民から意見を募った。 住民からは ・LRT導入には大規模な工事が必要である ・環境破壊の懸念がある ・建設費や災害時の復旧費が高額になる といった反対意見が多く寄せられた。このような声を受け、山梨県はLRTの導入を断念し、代わりに磁気マーカーを活用したゴムタイヤ式の新交通システム「富士トラム(仮称)」の検討に進むことを決めた。 この新システムはゴムタイヤ車両を使用し、磁気マーカーで位置を制御する仕組みを採用。一般道路を走行可能なため、富士山とリニア中央新幹線の新駅を結ぶなど、県内の2次交通ネットワークの高度化を目指すとしている。 磁気マーカーシステムは、車両の底部に取り付けられた磁気センサーモジュールが路面に敷設された磁気マーカーの磁力を読み取り、車両の位置を高精度に把握する自動運転支援技術だ。この技術はすでに実証実験が進められている。 海外では、アラブ首長国連邦やマレーシア、中国、韓国などで、自動運転車両や物流システムへの導入が始まっている。一方、国内では愛知製鋼が自動運転バスや高速道路でのトラック後続無人隊列走行、超小型電気自動車の無人走行など、多様な実証実験を全国で実施してきた。 磁気マーカーシステムには多くのメリットがある。光学デバイスが苦手とする積雪や霧、逆光といった視界不良の環境や、衛星利用測位システム(GPS)信号が届かないトンネルや地下でも利用可能だ。また、自動運転システムに必要なセンサーやライダー、カメラと比較して部品点数が少なく、コストを抑えられるのも特徴だ。 さらに、数mm単位の位置情報を取得できるため、狭い道路や複雑な環境でも正確な運転制御が可能。耐久性が高く、保守や交換が少ない点も利点として挙げられる。このため、バスやトラムといった特定ルートを走る公共交通に特に適しており、システム設計の簡素化にもつながる。 一方で、課題も存在する。磁気マーカーを路面に設置する初期コストが必要であることや、固定ルートに依存するため柔軟な経路変更が難しい点が指摘されている。また、路面や磁気マーカーが破損した場合、誘導精度が低下するリスクがある。こうした保守管理の面での課題は今後の克服が求められる。