取材したウクライナ兵の死 日々命奪われる「こう着」の現実
■「ウクライナで起きていることを忘れないで」
彼について記事を書くことを伝えると、オレクサンドルさんの家族や恋人がメッセージを寄せてくれた。 父・セルギーさんのメッセージ 「オレクサンドルと最後に話したのは(亡くなる2日前の)3月18日。信頼できる仲間に囲まれ、重要な仕事をし、幸せだと話していました。私とはしばらく会えそうにないとも言っていました」 「オレクサンドルは責任感のある誠実な人間でした。国の変化を夢見て、自分のできることをやっていました」 「私の息子の運命について知ってくれた日本の皆様に感謝したいです。残念ながら、彼は亡くなりました。私たちは非常に仲が良い親子だったので、私にとってとても大きな喪失です」
恋人・カリーナさんのメッセージ 「最後にメッセージをやりとりしたのは(亡くなる前日の)3月19日で、私から写真を受け取るのが『いつも嬉しい』と言っていました。ひと月近く会えていなかったので、これからもっと写真を送ってあげようと思っていました」 「彼はとても責任感が強く、規律正しい人でしたが、同時に楽しく冗談が大好きで、心の広い人でもありました。みな、彼を思い出すとき笑顔になりますが、それが多くを語っているでしょう」 「彼の物語が人々を悲しませることを、私は望んでいません。彼は自らの愛した人々が彼の死を受け入れ、前に進み、彼のやりかけたことを受け継ぐよう、できるかぎりのことをしていました」 「これを読む人には、占領された土地のひとつひとつを取り戻すためにどれほどの犠牲が払われているかを知ってほしいです。しかし、こうした犠牲は決して無駄にならないと信じたいです。ウクライナで起きていることを忘れないでください。そして、ロシアとの戦いで最も価値あるもの(命)を捧げ戦死した兵士達に敬意を表してください」 ウクライナ軍の戦死者の数について、ゼレンスキー大統領は今年2月の会見で3万1000人にのぼると明らかにしている。戦線に劇的な変化が起きていなくとも、戦闘が落ち着いている訳ではない。私たちがオレクサンドルさんを取材した2月以降も、軍の部隊や自治体関連のSNSには数日おきに戦死者の情報が投稿されている。ロシアの軍事侵攻さえなければ、失われることはなかった数多くの命、大きく報じられることのない数え切れない犠牲が、きょうも積み上がっている。