「失われた25年」今こそ直視すべきその根源理由 必要なのは「働き方改革」ではない
厳しいWin―Win
人間には、付加価値の高い仕事をし、さらにその付加価値を上げていこうと努力する、という意欲と能力がある。ところが管理者の側が、それを発揮させず、付加価値の低い仕事をさせ続ければ、それはまさに人間性を尊重していないことになる。 そして、社員に生産性の低い仕事をさせ続ければ、結局は企業としての生産性そして収益性も低いままとなり、企業は社員に十分な給料を払うことができなくなる。長期的には、雇用も維持できなくなる。これも人間性の尊重にもとる、とトヨタは考えているのだ。 トヨタ生産方式とは、「少人化」という圧力を現場に常に与え続け、トヨタの競争力を上げ続けることが、結果として労働者の雇用を維持し、給料を上げることにもつながる、という、いわば「厳しいWin―Win」を目指す仕組みなのだ。 そしてそれは同時に、「他の仕事」が常にある、つまり常に成長し続けていることが前提であるという意味で、経営者に対しても厳しい要求を突きつける。少人化させながら、「他の仕事」が用意できなければ、解雇するしかない。つまり従業員と経営者がともに「厳しいWin―Win」にコミットする、のがトヨタ生産方式の本質なのである。 そして実際、トヨタ生産方式によって、トヨタは世界一の自動車メーカーになり、世界のあらゆる製造業および非製造業の手本となった。 だが、日本のホワイトカラーの現場はどうなのだろうか? 日本のホワイトカラー職場において「少人化」、つまり人数を減らすことで生産性を向上させようという意識が徹底されているという話をあなたは聞いたことがあるだろうか。経営者が「厳しいWin―Win」にコミットし、「生産性が上がったら他の仕事をしてもらう」という運用は? あなたの会社ではどうだろうか? 少人化によって、生産性を向上させつつ、勤労者の人間性をさらに高めようとしているだろうか? ブルーカラーもホワイトカラーも、同じひとつの会社の中で働いている同僚である。にもかかわらず、この違いはいったい何なのだろうか? 本連載ではこれを順に解き明かしていく。 (村田聡一郎、SAPジャパン株式会社 コーポレート・トランスフォーメーション ディレクター)
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