「失われた25年」今こそ直視すべきその根源理由 必要なのは「働き方改革」ではない
トヨタ生産方式の本質は「人間性の尊重」
トヨタの工長からたたき上げ、副社長にまでなった大野耐一氏が記した名著『トヨタ生産方式~脱規模の経営をめざして』は、1978年に出版されて以来、トヨタの、さらには高度成長期における日本製造業の成功の原動力とされ、世界中の注目を集めてきた。 「ジャスト・イン・タイム」と「自働化」を2本柱とするトヨタ生産方式を研究し、それをさらに発展させた「リーン生産方式」(ムリ・ムラ・ムダのない生産現場をつくる手法)も世界中で取り入れられている。 トヨタ自動車の社長を14年務め、2023年に会長に就任した豊田章男氏も、トヨタの自社メディア「トヨタイムズ」にて以下のように述べている。 トヨタ生産方式の2本柱は「ジャスト・イン・タイム」とニンベンのついた「自働化」。「自働化」は、まさに「人のために」。「人間尊重」ということ。〈中略〉 もう一つの柱は「ジャスト・イン・タイム」。ジャスト・イン・タイムを詰めていくということを言い換えれば、リードタイムを究極に短くしていくとゼロになるということ。その仕事自体が必要なくなれば、一番のジャスト・イン・タイム。 ただ、ゼロにはならない可能性があります。だけど、手待ちとか手戻りは省こうよと。ゼロになれば、その仕事はやめて、他の仕事をすればいい。そこまで続けるということ。 「トヨタ春交渉2021 #3 『トヨタ生産方式』『カーボンニュートラル』『SDGs』一人ひとりに何ができるか」より引用 大野耐一氏と豊田章男氏に共通するのは、「トヨタ生産方式の根幹は人間性の尊重である」という理念である。 実のところ、トヨタ生産方式は決して労働者に優しい(甘い)仕組みではない。むしろ、非常に厳しい考え方である。ただでさえ、機械化された生産ラインでは“機械的”な、つまり非人間的な動き方を余儀なくされる。「標準作業手順」と「タクトタイム」が設定され、同じ作業を最小限の動作でこなすことによって、品質を維持しつつ作業時間の短縮を目指すことになる。 その上常に「少人化」を目指し、余った人員が出れば「他の仕事をしてもらう」ことを是としている。そのために「多能工化」を普段から進めており、自分の得意な領域にとどまることを許されない。 「他の仕事をしてもらう」といえば多少聞こえはよいが、目指しているのは生産性の向上、つまりは人員数の削減によるコストダウンである。そしてこれは、余った人員を解雇するのではなく「他の仕事」に回すことができる、つまりずっと成長を続けているトヨタだからこそできることでもある。 社員の雇用を何より重視するトヨタが、一方でなぜここまで“優しくない”手法をとるのか? トヨタが特に日本国内においては雇用の維持を第一に考えていることは広く知られている。豊田氏は「国内生産300万台体制は石にかじりついてでも死守する」と繰り返し述べている。トヨタ本体のみならず、そこに連なる膨大なサプライヤー(トヨタでは「お取引先様」と呼ぶ)で働く人たちの雇用を守ることがトヨタの使命だと考えているのだ。 ところが一方で、トヨタ生産方式は、大野耐一氏の時代から「少人化」を是としている。これはなぜだろうか? 「雇用の維持」と「少人化」はなぜ矛盾しないのか?