なんと「CRMが江戸時代には確立」…現代でも通用する「富山の薬売り」の《驚きのマーケティング術》
「富山の薬売り」はCRMを導入していた
日本の「富山の薬売り」の話があります。江戸時代、富山では製薬産業が盛んでした。製造された薬は、「薬売り」が文字通り、背負子に背負って、日本中を売り歩いたそうです。いまではめったに見かけなくなりましたが、「置き薬」というシステムも富山の薬売りが編み出した手法です。 置き薬をおいている家庭には、毎年薬売りが訪問します。そこでのやりとり、薬の消費状況、家庭状況などはすべて「大福帳」という手帖に書き残されます。博物館に所蔵されている大福帳の現物を見ると、いかに事細かく顧客情報が記録されているか、きっと驚くはず。そして「これはいまでいう顧客データベースであり、彼らがやっていたことはダイレクトマーケティングであり、CRM(顧客関係管理)だ」と確信することでしょう。 「ああ、この子の母親の姉も、子どものころこういう熱を出していましたね。そのときはこの薬がよく効いたので、この子にも効くでしょう」 「この子の父方の家系では、夏場にお腹を壊す人が多かった。下痢止めを多めに入れておきましょう」 こんな会話が当たり前に行われていたそうです。この話を聞いて何を考えるのか。 富山の薬売りがしていたことは、いまのD2C、ダイレクトマーケティングでやろうとしていることと同じです。それはインターネット、コンピュータを活用することで、より高度になっているのです。富山の薬売りを知らずに、ダイレクトマーケティング、CRMを考案した人は、いわば「車輪の再発明」をしたのかもしれません。 ここで「とはいえ、江戸時代の商人が目指したことを現代のテクノロジーでさらに発展させたかたちで実現したのだから、わざわざ過去を見なくてもいいのではないか?」という声も聞こえてきそうです。 「より原始的でシンプルなかたちだからこそ、その本質が見える」 現代の顧客データベース、CRMの観点では見えにくくなっている、「手書きの大福帳」からは、商売の人間臭さが感じられます。何代にもわたって管理され、加筆されている大福帳には、「人の血が通っているよう」に思えるのです。現代のビジネスも、人を相手にする以上、人の血が通ったものでなければならないということを再確認させてくれる気がします。 『「アジア人には無理」...その言葉のウラで「日本人」が《9秒台》の記録を更新し続けられる納得の「事実」』へ続く
山川 恭弘