2024年を振り返るアニメ評論家座談会【後編】 アニメ視聴者層・受容方法の多様化
2024年の「リメイクアニメ」ブームについて
――様々な世代にリーチすることの必要性というお話が出ましたが、所感ではここ数年旧作アニメのリメイクが多く、2024年もこの傾向は継続しています。今年は『うる星やつら』と『らんま1/2』のリメイクが放送されてヒットしました。 杉本:作り手の「今、このリメイクで何を表現すべきか」という意思がもっと伝わってくる作品が観たいです。『らんま』や『うる星やつら』のように原作通りに作るパターンが増えている中で、作り手としてそれで終わっていいのか、という問題はあるのではないでしょうか。『狼と香辛料』と『るろうに剣心』も、たしか旧作は原作と展開が違いましたよね。ただリメイク版では、もちろん多少の違いはありますけれど、基本的に原作に寄せる方針で作られている。「原作通りに」というニーズが強いのはわかりますが、もう一歩踏み込んだかたちの映像化も観たいと思うんです。もちろん、むやみに変えればOKという話ではないです。原作の良い部分をいかに映像という異なる媒体で伸ばしていくのか、ということです。 藤津:『うる星やつら』のリメイクでは、スタッフも苦労している様子が伝わってきました。全体としてはおしゃれにできているし、今の人が観やすいような体験になっているなと思ったんですけど、エピソードの並べ方やキャラの深みの付け方など、難しい点が多かったのではないでしょうか。逆に『らんま』のほうがギャグよりもラブコメの度合いが強く、抑えるところと弾けるところのバランスが取りやすい原作だったこともあり、安定している印象です。監督の宇田鋼之介さんは『ワンピース』や『DAYS』といった、少年向けやスポーツものをやってらっしゃる方ですけど、POPアートワークにイラストレーターの北村みなみさんを起用したりして、今の人が観ておしゃれに感じるようなセンスをたくさん入れている。それも上手く作用しているような気がします。あとはキャスティングも興味深いですね。旧作の『うる星やつら』が70年代にすでにキャリアがあるキャストが選ばれるかたちだったので2024年のリメイクではキャストを一新した。一方『らんま』はその後、90年代に活躍することになる若手がキャスティングされているのでキャストを変えませんでした。それも安定感に繋がっているんじゃないかと思います。 渡邉:リメイクアニメに関して、ここ数年ずっと続いているというのは自分も感じています。よく言われるのは、リメイク作品は親子で観られるので、ビジネス的にも大変効率がいいという話ですよね。僕もそうなんですけど、『るろ剣』の最初のアニメを観ていて、その上でリメイクを観るという放送で年配の人たちは楽しんでいると思います。 ――『狼と香辛料』は自分のまわりでも観ている人が少なく、どの層が観ているのかよくわからない印象です。 藤津:『狼と香辛料』がそれに当てはまるかどうかわかりませんが、国内のファンがそこまで目立たない作品は、海外にファンがたくさんいる場合が多いです。海外の支持があって続編が制作されるというケースは近年増えています。例えば『Dr.STONE』は北米で人気で、それで最後のエピソードまで作られてますよね。もちろん国内でも『ジャンプ』の人気作品なので一定の人気はありますけど、4期、5期までやるとなってくると、それは北米での人気も含んでいる側面があります。 杉本:「異世界」ものも、似たような状況にありますよね。誰がこのアニメを観ているんだろうと思ったら、案外北米で観られている。クランチロールのアニメアワード2025では、「最優秀異世界作品賞」が新設されるみたいです。