【独自取材】「現代のアヘン戦争」フェンタニルの脅威を阻止できるのか?史上最悪の麻薬で街が“ゾンビタウン化”トランプ新大統領の決断(前編)
日中から堂々と麻薬を吸入…警察は何も出来ず
ケンジントン地区を歩くと、中心部に近づくに従い路上に“ゾンビ化”した薬物中毒者の姿が増えてくる。地下道では汚物などが垂れ流され、薬物の吸引する際の煙と混じり合った悪臭が広がる。路上はゴミだらけで、使用済みの注射器や薬物取引に使われる小さなビニール袋も散乱している。よく見ると、注射器も袋も全て同じ形状だ。規格が統一されているのだろうか。 薬物中毒者は日中でも堂々と麻薬を使用して、自分の世界に没頭していた。声をかけてもうつろな様子でやりとりはかみ合わない。その周辺には売人やギャングとみられる人たちもたむろしていて、近づけば怒鳴り散らされるか、モノを投げつけ追い払われる。かなり危険な雰囲気を感じる。 警察官は日中も夜も、常時複数人で見回りをしていて、時折声をかけたりしているものの、明らかに薬物中毒で危険な状況に見える人たちは放置しているのが現状だ。 中毒者が多すぎて取り締まりに限界があるため、あえてこの地域に中毒者を集中させた方が、他の地域に分散されるよりも管理がしやすいとも言われている。
ゾンビ化の原因は「フェンタニル」
この地域では大麻やコカイン、ヘロインなど薬物は何でも手に入ると言われているが、ゾンビ化の原因としては、特に「フェンタニル」と呼ばれる合成麻薬が挙げられる。 フェンタニルは、がん患者の苦痛緩和などに用いる強力な鎮静剤で、合成オピオイドの一種だ。効果はヘロインの50倍、モルヒネの100倍ともいわれ強い依存性がある。致死量はたったの2mgだ。 元々は医薬品だが、規制が強化されると密造品が急増した。その原料は中国を通じてメキシコに送れて生成され、アメリカに流入しているという。アメリカではフェンタニルなどの薬物の過剰摂取が、18歳から49歳の死因ではトップになり、年間で7万人が死亡している。「現代のアヘン戦争」とも呼ばれ、アメリカ国内では、中国が意図的に違法薬物を送り込んでいると批判の声も挙がっている。