病院が研修医採用に日本初の“実技試験”を導入、その狙いとは?
一方、このトライアウトを振り返って、試験を監修した倉敷中央病院 救命救急センター長兼教育研修部部長の福岡敏雄医師は、「試験の目的は単に手先の器用さを試すのではなく、医療現場という命を預かる状況での集中力や判断力、極限状況でも諦めない精神力を試すことでした。医学生が試験に取り組む様子をみていると、最初は手も足も出なかったのが、繰り返し挑戦する中で色々な工夫をするなどの進化が見えて、短い時間にも自分を向上させていく可能性を感じました」とコメントしています。
患者の身体と向き合う医療現場において、医師には判断や処置のミスが許されない中で目の前の患者にある課題を解決するという大きなプレッシャーが掛かり、極限状態でも冷静に的確な判断・処置ができる精神的な強さや粘り強さが求められます。しかし、実際にはこうした緊張感において医師としての資質や技術を磨くのは研修医になってからであり、大学の成績や面接試験で試せるのはこうした資質のごく一部。優秀な成績を修めて国家試験に合格したという結果からでは、医師としての資質は十分に試せないというのが現状なのです。
この点について、THE PAGEの取材に応じてくださった福岡医師は、「今回実技試験を導入した背景は、今の評価方法では十分ではないということ。そして、それに少なからぬ不満や不安を感じている医学生が多いということです。医学教育の領域では、最近注目されていることとして“プロフェッショナリズム教育”があります。知識や技術は教えられますが、医師としての行動規範やプロとしての自立性、自主性、社会的役割などは簡単に教えることはできません。そして、その評価も難しいのです。このような実技試験を取り入れることは、表層的なことだけではなくもっと本質的なことを見ようとしているという教育機関としての態度表明であり、医師を目指す若い人たちにプロ意識を促進することにつながるのではないでしょうか。」とコメントしています。 また福岡医師は、人材採用の課題について「医師に限らず、社会は“とりあえず仕事ができる人”を求めすぎているのではないかと思っています。そうすると、“できるふりをする人”が増えるというとても難しい状況になるのです」と語り、求められるのは自分自身に求められるものは何かを理解し、また自分自身が改善すべき課題は何かを自覚し、自らの力で成長できる人材であると語ります。「今回のトライアウトでも『面接や筆記以外に自分を評価してもらえることが増えるのがうれしい』といった学生がいました。自分自身の成長につながる評価であれば、その結果とそこから見える改善点を喜んで受け入れることが、プロとしてさらに先に進む行動規範だと感じています」(福岡医師)。 今回の実技試験には、高齢化社会で医療に対するニーズが高まる中で、様々な状況でも患者のニーズに応える医療を提供することができる優秀な医師を目指して、自分自身を高めていきたいという強い意思を持った人材を育成して、世の中に貢献したいという思いがあるようです。なお、倉敷中央病院ではこのトライアウトの内容を参考に、8月には実技試験を取り入れた本採用試験を実施するとのことです。