【ライブレポート】シド・マオ、サプライズも大成功だった多幸感いっぱいの初バースデーライブ
■「俺たちは今、いい関係でいられてるんだと思います」(シド・マオ) シドのボーカリスト、マオが10月23日にバースデーライブ『MAO「20241023」』を東京・恵比寿LIQUIDROOMにて開催した。 【画像】マオの一挙手一投足に会場が熱狂 マオにとって2024年は、人生の大きなターニングポイントを迎えた年でもあった。ソロアーティストとしての覚悟、そこからさらなる成長、展開を求めて、まず彼は自分を解き放つように“マオ from SID”から“マオ”へと名義を変えた。そして、初期衝動をテーマに、自ら全作詞・作曲を手掛けた初のフルアルバム『habit』を創作。それを携えて行った初のオールスタンディングでのライブハウスツアー『MAO TOUR 2024 -habit-』は、大盛況のなかフィニッシュを迎えた。こうして、ソロアーティストとしてあらたな第一歩を踏み出したマオが、その後自身の誕生日に合わせて行った単独ライブが本公演である。 マオがバースデーライブを開催するのは今回が初めてということで、本体のシドが現在ツアー『SID HALL TOUR 2024 ~Monochrome Circus~』を開催中にもかかわらず、会場には多くのマオファンが押し寄せ、場内はパンパン。開演時間を少し過ぎた頃、ツアーメンバーのnishi-ken(Key)、Leda(Gu)、Shoyo(Ba)、DUTTCH(Dr)がステージに現れスタンバイ。最後にマオが登場すると、場内は「マオ!」と呼ぶ黄色い声援に包まれる。茶髪にタイトな革ジャンを着たマオは、パンキッシュなロッカー仕様。それを裏切るように、この日のオープナーに「縄と蝶」を持ってくるところがなんともマオらしい。ミッドグルーヴのなか、歌詞の口調の変化に合わせてその人格を喉に宿らせ、歌い方まで変えていく歌唱テクニックで、冒頭から会場を歌に引き込む。 続いて始まったのは「最低」。裏切った相手に最低と言いながら、最終的には自分も同じことをしてしまう物語を、バンドサウンドに負けない太さに大成長した低音で場内に響かせる。短い挨拶を挟んだあとは、この日のために書き下ろした新曲「Guilty」を初アクト。新曲は、ツアーファイナルのステージで「ハッピーバースデー、俺~」と即興で披露した青春パンク路線とは違い(笑)、ミドルテンポでじわじわくるような仕上がり。その空気をさらに深めていくように、ライブは「枯渇」へと展開。テクニカルな歌唱とともに、短編の恋愛小説に浸っているような気分にさせてくれるライティングは彼の大きな武器。「深海」では、さらにそのディープなゾーンへとマオが観客たちを誘っていく。海の底へ沈んでいくようなサウンドに反して、マオが重苦しくなるような切ない気持ちを歌で包み込み、ファルセットを使って海底から泡のように海面へと浮かべていくパフォーマンスは何度観ても圧巻で、胸が締めつけられる。ここで緊張感が張りつめた前半最大の山場を作ったあとは、メンバー紹介を挟んでライブは中盤戦へ。 ブラシを使ったジャジーなドラムが印象的な「恋の泡」で地上に戻ったあとは、「朝帰り」で明るいムードを引き寄せる。途端にマオの表情も煌めき出し、フロアには軽快なクラップ音が鳴り響く。そうして「Closet」では、間奏が始まるとマオはドラム台の前に立ち、キメを真似してはしゃいでみせる。そのノリを引き継ぐように、このあとのMCでは「俺は革ジャンだぞ! 涼しさを捨てて。お前ら、何着てるのか素材を言ってみろ」と無茶ぶりすると、元気な声で「綿」「レーヨン」とあちこちから声が上がる。このリアクションにはマオも「綿じゃねぇよ」とつっこみながら大笑い。 場内の空気が和んだところで、曲は「rule」へ。ベースがファンキーなスラップソロを披露すると、観客たちは一斉に手を左右に振る仕草で場内の盛り上がりを作ってみせる。そうして、最後まですれ違ったまま終わっていくドラマとメロディ、アレンジがぴったりはまった人気曲「違う果実」をパフォーマンス。そこから、歌声もメロディも切なくなるほど美しい「青い雨」へ。恋愛ソングが得意な彼の楽曲の中で、唯一これはマオが喉の不調に悩まされ、暗闇のトンネルの中で落ちるところまで落ちて、もがいていた時期のリアルな心情を刻んだ楽曲。そんなときに支えてくれたファンに感謝を綴った“一緒に濡れてくれる 君がいるから”のパートのみ、お立ち台に上がってマオが熱唱すると、フロアには「マオ!」「マオ!」と猛烈に連呼する声が広がっていき、観客たちは“私たちがいるから”というように大きな拍手をマオに届けていった。それを受けて、マオが苦しかった当時のことを振り返り言葉にする。 「その頃“どんな声でも、どんなマオさんでも応援します”と言ってくれてたときのみんなの俺を見る顔と、今の俺を見る顔は違う。今は、みんなが俺の顔を(心配そうにではなく)普通に安心して見てる。だから、どんどん俺は歌に入っていけるの。あの当時の経験があったから、俺たちは今、いい関係でいられてるんだと思います」とファンに優しく語りかけたマオ。お互いの深まった絆を確認し合うような言葉に、ファンがウルウルしかけたところに「LIQUIDROOM、ここからは俺の革ジャンを脱がせるかどうか、お前らとの対決だ!」とけしかけ、ライブはこのあと終盤戦へ。 「HABIT」が始まると、フロアは一丸となってクラップ、oiコールを繰り返す。マオは歌い方も歌詞もパフォーマンスも、ここから前半戦とはまったく別キャラを発動。カリスマ性を持ったオーラを纏い、毒づく言葉を荒々しいシャウトを入れながら歌い出したマオは、ぎらついた鋭い視線で前方のファンに次々と近づいて、挑発を繰り返していく。「アガってんの、お前ら」とさらに観客にけしかけ「不埒な体温」が始まると、フロアには熱狂の渦が立ち上がる。その熱波を受け、マオが革ジャンを勢いよく脱ぎ捨てる。そうしてパンキッシュな「ROUTE209」へ突入すると、マオの早口でまくし立てるエネルギッシュな歌唱、激しい巻き舌のシャウトにつられ、観客たちは待ってましたというように荒れ狂い、頭を振る。そこに畳みかけるように、ツアーで初披露したもっとハードに、もっとパンキッシュに荒ぶる新曲「mannequin」を連続投下。いきなりフロアに飛び降りたマオが、ファンの目の前で熱唱し出すと、場内は興奮状態に。そうしてフロアのテンションをどこまでも上げていったあと、再びステージに戻ったマオは真ん中のお立ち台に上り、クールに中指を立てて、颯爽とステージを去っていった。 アンコールは久々のアクトとなる、しんみりとしたスローバラード「頬づえ」の歌唱からスタート。歌い終えたマオは「『mannequin』のあとにこれ。どっちが本当の自分ってみんなにも思われそうだけど、どっちも(自分)」と続きを話す前にフロアからは、そんなのわかってると言わんばかりに「どっちも好き!」という喜ばしい声が上がる。そのあとの「サヨナララスト」が始まると、マオは左右にステップを踏むダンスにメンバー、オーディエンスを積極的に巻き込んでいって、会場内に楽しい雰囲気を作っていく。曲中、メンバーのソロリレーが終わったあと、マオからは「ウチのスタッフ、来年“20251023”もここを仮で押さえてるらしいよ。だから、来年もここで会えるかもしれません」といううれしい報告が告げられる。そうして、曲に再び戻ろうとした瞬間。バンドメンバーたちがバースデーソングを演奏し出すと、ファンが一斉に歌唱を始め、舞台の横からバースデーケーキが登場。「ここで来るのか!」と驚きながら、マオがみんなの前でケーキのろうそくを吹き消す。 誕生日ならではのサプライズも大成功したところで、再び曲へと戻り、次の「chandelier」へ。ここではマオが笑顔を浮かべながら、フロアから伸びてきたファンの手に自分の手を合わせて、ハートマークを作っていく。手が届かない人々に指ハートをプレゼントしまくったあと、この日は喉が不調のとき、コロナ禍で声が出せないときにもずっと歌い続けた名バラード「月」を久々に歌唱。ミラーボールが月光となって降り注ぐなか、“約束するから”という最後のフレーズをマオが歌い上げると、観客たちは鼻をすすりながら、あの頃とは違うマオの大きな温かい気持ちに包まれ、感涙。ステージにいるマオも、ファンも、多幸感が胸いっぱいに広がるなか、この日のバースデーライブは終わりを告げた。 終演後にはスクリーンを通して、10月24日に配信がスタートしたばかりのデジタルシングル「mannequin」のMVを初公開したマオ。今後、ソロでは東京・大手町三井ホールにて12月7日は恒例のクリスマスライブ『X’mas Premium Live 2024』を、8日は『Mao’s X’mas Party!! 2024』をそれぞれ開催。さらに、シドは現在“白”と“黒”2つの世界で構成するコンセプトツアーを全国で実施中。ソロとシド、ボーカリスト、フロントマンとしてそれぞれどんな違いがあるのか。両方のマオが観られる絶好のタイミングなので、ぜひとも両方のライブ会場に駆けつけてもらいたい。 TEXT BY 東條祥恵 PHOTO BY 江隈麗志 <セットリスト> 1.縄と蝶 2.最低 3.Guilty 4.枯渇 5.深海 6.恋の泡 7.朝帰り 8.Closet 9.rule 10.違う果実 11.青い雨 12.HABIT 13.不埒な体温 14.ROUTE209 15.mannequin En1.頬づえ En2.サヨナララスト En3.chandelier En4.月 リリース情報 2024.10.24 ON SALE DIGITAL SINGLE「mannequin」
THE FIRST TIMES編集部