青森県知事、トラックドライバーの残業規制に猛反発 「リンゴが運べず、ミカンに負ける」
4月1日にトラックドライバーの残業規制が強化されるのに伴い、ドライバーの1日の拘束時間の上限も「最大16時間」から「最大15時間」に引き下げられる。青森県の宮下宗一郎知事は、県の特産品であるリンゴを1日で東京に運べなくなるとして、拘束時間の上限を緩和するよう国に特例措置を要望した。全国一律に規制するのではなく、各地域の実情を考慮してほしいと訴える。胸中を聞いた。 【関連画像】1979年青森県むつ市生まれ。東北大学法学部卒業後、2003年国土交通省入省。外務省出向(在ニューヨーク総領事館領事)などを経て、14年むつ市長。23年6月から現職(写真:尾苗清) 青森から東京の豊洲市場や大田市場に届けようと思うと、15時間だとやっぱり厳しいですか。 宮下宗一郎・青森県知事(以下、宮下氏):厳しいですね。運転時間そのものが9~10時間かかり、法定の休息時間に荷受け、荷下ろしなどの時間もあります。実際に試算もしてみました。朝8時に出庫し、午前中に3カ所の荷主を回ってリンゴを積み込み、休憩を挟みながら東北自動車道を走ります。荷下ろしが完了するのは午前0時。拘束時間は16時間になります。 地図を見れば一目瞭然ですが、東京と青森は(直線距離で約580キロと)大きく離れています。この物理的な距離はなかなか埋められない。青森県はドライバーの需給ギャップが特に深刻です。野村総合研究所の予測によると、2030年には44%もの貨物が運べなくなる可能性があり、(35%の)全国平均を大きく上回っています。青森県にとっては結構、死活問題です。 国に特例措置を求めた理由を改めて聞かせてください。 宮下氏:やっぱり分かってほしいですよね。私たちの地域性というのを。労働規制だということで始まっているんですが、我々にしてみれば、産業構造の転換だと思うんですよ。今回の2024年問題は。だからそこを理解してほしい。 特例措置をずっと続けてほしいというわけではないんです。十分な準備期間があっただろうという人もいますが、確かに物流業界で体力のある大手企業は、様々な取り組みができるでしょう。ですが、中小・零細企業でトラックが10台とかそういう規模で事業をやっている人たちはなかなか対策は取れないんですよ。そうしたことにも配慮してほしいということですね。 ●1日で運べるところが2日に 産業構造の転換ということですが、青森県にとってはやはり農業、漁業への影響が大きいのでしょうか。 宮下氏:1次産業ですよね。1次産業は鮮度が勝負ですし、さらにはやっぱりコストの問題です。今まで以上にコストがかかるとなると生産品の競争力が落ちるので、そこはすごく懸念しています。 1日で運べるところを2日にするわけですから、2倍ということまでいくかどうか分からないですけど、その分コストがかかります。 誤解のないように申し上げておきますと、「ホワイト物流」は推進されるべきことだと思います。今までの日本の物流は、トラックドライバーの非効率な働き方に支えられてきた部分がすごくあると思うんですよ。ドライバーの処遇が改善されることはすごく大切なことだと思います。 ただ一方で、青森県の場合は、2024年問題の対応がドライバーにとってマイナスになる可能性すらあるわけです。中小企業が事業を継続できなくなって廃業に追い込まれたり、ドライバーが職を失ったりということがある。 急いで運ぼうとすると、安全性が確保されないリスクが出てきます。荷物の出し入れを急いだりしても事故のもとですよね。 だから本当にドライバーのための改革になっているかは、地域によって違うと思うんですよ。首都圏で1日8時間労働して、それをなりわいとするドライバーだとしたら、すごくいい改革になっていると思うんですが、超長距離を前提にして、それをなりわいにしているドライバーだと、むしろマイナスです。 本当の意味で日本が多様な働き方というものを推進するならば、一生懸命働きたいという人たちのニーズにも応えるべきだと思います。現場からは、なんで自分たちの収入が減ることをするんだという話が耳に入ってきます。