「選択的夫婦別姓」を大江麻理子さんと深掘り!個人が生きやすく、国も発展する方向に
テレビ東京『WBS(ワールドビジネスサテライト)』の大江麻理子キャスターがセレクトした“働く30代女性が今知っておくべきニュースキーワード”を自身の視点から解説する連載。第48回目は「選択的夫婦別姓」について大江さんと一緒に深掘りします。 【写真】大江麻理子さんと考える社会問題「働く30代のニュースゼミナール」
今月のKeyword【選択的夫婦別姓】
せんたくてきふうふべっせい▶夫婦が望む場合に、結婚後も夫婦がそれぞれ結婚前の姓を名乗ることを認めること。現行民法では婚姻時に夫または妻いずれか一方の姓を選択しなければならない。多くの夫婦において妻側が改姓しており、経団連が政府に改姓による不都合を指摘して選択的夫婦別姓制度の早期導入を提言した。 ■関連ニュースTopic 1947年12月 【民法改正により、婚姻に際し、夫または妻の姓を名乗る夫婦同姓が定められた】 明治時代の旧民法では夫婦は同じ「家」の氏を名乗ると規定されていたが、戦後に民法が改正され家制度は廃止に。婚姻の際、夫婦は夫か妻いずれかの姓を選ぶ現制度に 2010年2月 【法務省が選択的夫婦別姓制度の導入を含めた民法改正法案を準備。国会提出は見送られた】 1991年から法務省の法制審議会で選択的夫婦別姓の導入の検討が行われ、1996年と2010年に法務省においてそれぞれ改正法案を準備したが、国会提出には至らなかった 2024年6月 【経団連が、選択的夫婦別姓制度の実現を求める提言を発表。政府に早期の法改正を求めた】 経団連は女性活躍を阻害するビジネス上リスクのひとつとして夫婦同姓制度の見直しを求め、希望すれば夫婦がそれぞれ婚姻前の姓を名乗り続けられる制度の導入を提言 ■「経団連が政府に選択的夫婦別姓制度の早期導入を求め提言。DEIを尊重する社会へ」 「女性が社会に進出して男性と同じように働くようになった今も、結婚後に夫の名字に変える女性が多く、働く上で不都合を生じさせる原因になっています。それを問題視した経団連(日本経済団体連合会)が、選択的夫婦別姓制度の早期導入を求めて政府に申し入れをしました。この提言は大きなニュースになりましたし、働く女性が多いバイラ読者の関心も高いのではないかと思い、取り上げました」と大江さん。現行民法では、結婚に際して夫または妻の姓を選択しなければならない。 「選択的夫婦別姓制度を導入しようという動きはこれまでもありましたが、その度に慎重な検討が必要などの理由で国会提出には至っていない状況が続いています。国連の女性差別撤廃委員会は、日本に対してこれまで3度にわたり是正勧告をしていますが、事態が動くことはなかったのです。しかし今回、日本を代表する経済団体のひとつで、政界にも影響力を持つ経団連が提言を行ったことは大きな変化です。経済界に決断を迫られたことで、今度は政治の側が何らかの判断を下す必要が出てきました。日本社会の認識はすでに変わってきていて、今回の読者アンケートでも選択的夫婦別姓に賛成と答えた人が8割いました。報道機関の世論調査でも賛成が半数を超えているのが現状です」 社会が賛成の方向に動いている背景に、DEIの考え方があると大江さん。 「5月号で注目キーワードとして取り上げましたが、DEIはダイバーシティ(多様性)とエクイティ(公平性)とインクルージョン(包括性)の頭文字をとったもの。一人ひとりが持つ多様な個性を生かして価値創出につなげる考え方で、企業でも推進する動きが広がっています。各社が取り組みを進めるなかで、現在の婚姻制度が多様性を認めているか、男性と女性が公平であるか、様々な考え方を包摂しているか、と考えていくと、姓をどちらかが変えなければならない、しかも9割以上女性が変えているという問題にぶつかるのではないでしょうか。しかも経団連は、DEIの観点からだけでなく企業経営の観点でも現在の夫婦同氏制度がリスクになり得ると指摘し、政府が一刻も早く改正法案を提出し、国会において建設的な議論が行われることを期待するとしています」 ■「職場での旧姓の通称使用によるトラブルがビジネス上のリスクになり得るとの指摘も」 読者からは職場で旧姓を通称として使用する上での不便や困りごとも寄せられた。 「企業において旧姓の通称使用が認められ、増えている一方、不都合が生じる原因にもなっています。経団連は提言のなかで『ビジネス上のリスクになり得る』と問題提起しています。たとえば、税や社会保険の手続きの際に通称と戸籍上の姓を照合する負担を強いられたり、海外出張などで飛行機やホテルなどを通称で予約した場合、パスポートに記載された名前と異なることでトラブルが発生する事例も。また、研究者などの職種では、論文等の実績が氏名とひもづいているため戸籍名が変わるとキャリアが途絶えてしまう問題も挙げられています。職場において結婚や離婚に伴う改姓手続きを行う際、その情報の保護範囲が不明瞭で、プライバシーの侵害につながりかねないとの指摘もあります」 さらに、経営者などの会社役員が姓を変える際は会社関連のあらゆる登記を変更する必要があり、個人の問題ではなく企業としても大きな負荷に直面することになる。 「実は私も、結婚する際どちらの姓にするか話し合いました。夫が経営者でほかの会社の社外取締役もしていたので、『変更作業を各企業にお願いすることになるのは大変すぎる』という理由もあり、私が姓を変えることにしました。でも、妻が改姓して当たり前でなく、ちゃんと夫婦でどうするか話し合えたのは嬉しかったですね」 国民の多くが「もうひとつ選択肢があってもよいのでは」と考えるところまで変わってきてはいるものの、「では、子どもの姓はどうするの?」という心配の声もあると大江さん。 「1996年の法制審議会の答申では、『結婚の際に、あらかじめ子どもが名乗るべき姓を決めておく』という考え方が採用されていて、子どもが複数いるときは、子どもは全員同じ姓を名乗ることとされています。たとえばアメリカでは、州によって異なりますが原則自由で、両親どちらかの姓、両親の姓を合わせた姓、まったく新しい姓を創作することも認められています。法務省によると、夫婦同姓にしなければならないのは日本だけだそうです。他国の事例を参考にしながら、個人が生きやすく、国も発展する方法を探るタイミングがきています」 【大江麻理子】 おおえ まりこ●テレビ東京報道局ニュースセンターキャスター。2001年入社。アナウンサーとして幅広い番組にて活躍後、’13年にニューヨーク支局に赴任。’14年春から『WBS(ワールドビジネスサテライト)』のメインキャスターを務める。 撮影/花村克彦〈Ajoite〉 取材・原文/佐久間知子 ※BAILA2024年11月号掲載