がんになったIT経営者が直面した「葛藤と現実」 2度の治療で「身長176センチ、体重46キロ」に
よい売却先候補が見つかったとは言え、経営陣の反発とMBOの動きもあり、契約が締結されるまでは、不安が尽きませんでした。 交渉がまとまらなかったらどうしようという強い不安がありました。売却条件が折り合わなかったらどうするのか。デューデリジェンス(会社を買収する際にその対象企業の経営実態を調査すること)や社員面談の結果、相手先がM&Aを見送ると通知してきたらどうするのか。リスクは数え上げればたくさんあります。M&Aに反対だった役員の突然の退職など、売却交渉に影響しかねない出来事もありました。
しかし、売却交渉が頓挫すれば、自分が経営者を続けられなくなった以上、オーシャンブリッジと社員の将来、そして自分たち家族の将来も危ぶまれます。そうした不安で、両足が地中深く、奥の方に強く引っ張り込まれるような感覚が常にありました。いつも強い不安に苛まれていました。 ■人生最大の仕事をやり遂げ、最大の危機が訪れる 私の不安をよそに、M&Aの売却条件の最終交渉と契約書の修正は着実に進んでいきます。それまでの過程で経営陣からは具体的な買収計画の提示がなく、MBOは検討から外れていました。そして2017年1月31日、無事に最終契約書が締結されたのです。
大きな達成感と、それ以上に大きな安堵感があふれてきました。会社、社員、自分、家族。みんなの未来はこれで大丈夫だと思いました。 16年前の創業当時を思い出し、会社は設立するよりも売却するほうが難しいと思いました。その意味で、オーシャンブリッジの売却は、自分が人生においてやり遂げた一番大きな仕事だったと考えています。 そして、そのわずか3週間後、2月下旬に3度目のがんである急性骨髄性白血病が見つかったのです。
「どうしてこのタイミングで……」とやるせない思いがあふれました。 あまりにも非情すぎるのではないか。それまで2回のがん告知では感じたことのない感情でした。
高山 知朗 :オーシャンブリッジ ファウンダー