がんになったIT経営者が直面した「葛藤と現実」 2度の治療で「身長176センチ、体重46キロ」に
■会社は自分の子どもであり自分自身でもある 創業者にとって、自分が立ち上げた会社は自分の子どものようなものだとよく言われます。私にとってはアイデンティティ、つまり自分自身でもあります。 自分の子どもあるいは分身を安心して任せられる信頼できる買い手が現れるのか、当初は非常に不安に思っていました。実際、すぐに見つかるようなものではありませんでした。 それでも売却先を探し始めてから何カ月か経ったころ、幸いにして手を挙げてくれる会社がいくつか出てきました。その中に、オーシャンブリッジと近い市場で事業を展開していてベンチャーマインドも持った会社がありました。それが、現在のオーシャンブリッジの親会社である株式会社ノーチラス・テクノロジーズです。
話し合いを進めていくと、この会社はオーシャンブリッジの創業理念や価値観、カルチャー、そして人材を非常に尊重してくれていました。買収してからも自社に吸収合併することなく、グループ内の一社として、引き続き独立した企業として経営していく方針だといいます。 もちろんリストラなどすることはなく、会社としての個性を活かしつつ、グループ内でシナジーを生み出していくということです。売却の重要な条件として考えていた全社員の雇用の継続も約束してくれました。話し合いを重ねるごとに、ぜひこの会社にオーシャンブリッジの未来を託したい、という思いが強くなっていきました。
売却先候補との交渉と並行して、幹部社員の説得も続けました。当時、私はすでに会長に退いて、社長は後進に譲っていましたが、その社長をはじめ経営陣からすれば、経営体制が変わり上司が変わるM&Aには基本的に反対です。雇用が維持されるとは言え、自分たちの立場や仕事が変わるかもしれないと不安に思う気持ちもよく分かります。 彼らからは、自分たち経営陣による買収、つまりMBO(マネジメントバイアウト)の可能性を検討したいという申し出もありました。私は資金面や体制面等から現実的には難しいのではないかと思いながらも、彼らに対しては、社外へのM&Aと彼ら経営陣へのMBOの両方の売却条件を並べて比較し、最終的に判断することを伝えました。