日本動産鑑定がシンポジウム、「企業価値担保権」に期待寄せる
「企業価値担保権」による無形資産の担保化
「企業価値担保権」については、事業性融資の推進等に関する法律案をテーマに、金融庁の若原幸雄参事官(企画市場局)が解説した。 はじめに、「企業価値担保権」の法制化に向けての動きが進んだ背景として、経営者保証に依存しない融資全体の割合は上昇傾向にあるものの、内訳としては長期貸付の割合があまり高くないこと、一方で、事業性評価による融資に対する事業者側のニーズが高まっていることを挙げた。 これらを踏まえ、「企業価値担保権」が活用されることにより、①ノウハウや顧客基盤といった無形資産も担保として扱えるため、有形資産に乏しいベンチャー企業やスタートアップの資金調達にも役立つこと、②事業者の事業自体への関心が高まることで、金融機関側による経営改善に向けた積極的な支援への動機づけになることなど、借り手である事業者側と貸し手である金融機関側、双方の視点からのメリットについて言及した。 特に、ベンチャー企業等の資金調達の際、これまでの主流はベンチャーキャピタルによる出資を中心としたエクイティファイナンスだったが、株式の希薄化を懸念する創業者にとって、デットファイナンスには一定のニーズがある点に触れ、資金調達の手段のひとつとして、「企業価値担保権」が選択肢になり得ることも説明した。
事業性融資の推進等に関する法律案の概要
「企業価値担保権」の法制化に向け3月に国会提出された新法の法律案の具体的な内容についても触れた。貸し手側の実務として、①担保権者は新設される免許を交付された「企業価値担保権信託会社」とし、この担保権者は貸し手と同一であることも可能とすること、②企業価値担保権の貸し手には制限はなく、金融機関以外のファンド等も利用できること、③他の担保に対する対抗要件は商業登記簿への登記によるものとすることなどの骨子が示された。 また、借り手の権限として、担保として提供する担保目的財産の処分については、事業譲渡など担保価値の毀損につながりかねないケース以外、基本的には自由であるほか、企業価値担保権を活用する際は、粉飾等の場合を除き、経営者保証の利用が制限されることも確認した。 一方で、「企業価値担保権」を利用した事業者の債務弁済が滞るなどして担保権を実行せざるを得なくなった場合の手続きについても言及。具体的には、①管財人を選任し、事業価値を可能な限り高く維持、②裁判所の監督の下、原則として事業を解体せず一体のままスポンサーに譲渡、③事業譲渡の対価から貸し手の債権に充当するほか、事業譲渡の対価の一部は一般債権者等への配当に充てるために確保、という流れで進むことが想定されているとした。 ただ、「企業価値担保権」のデメリットとして、金融機関など貸し手側に一定のコスト負担があることに触れ、実務上で従来の担保による融資がスムーズに行える場合は従来の担保を利用することも可能であることを付言。資金調達の際の担保が「企業価値担保権」のみに限定されるわけではなく、従来の不動産担保などに加えて利用できる新たな選択肢だという考え方を示した。