岡山天音は『ライオンの隠れ家』のもう一人の主役だった “橘家”をめぐる物語にもピリオド
樺島(後藤剛範)が逮捕され、彼と手を組んでいた橘祥吾(向井理)にも捜査の手が回る可能性があること、つまり愛生(尾野真千子)とライオン=愁人(佐藤大空)が自由になる。それを工藤(桜井ユキ)に教えられたものの、素直に喜ぶことができない洸人(柳楽優弥)。 【写真】愛生(尾野真千子)に抱きしめられ涙目の柚留木(岡山天音) 12月13日に放送された『ライオンの隠れ家』(TBS系)第10話。ドラマ自体はまだ続くけれども、“橘家”をめぐる一連のストーリーには今回でほぼピリオドが打たれることになったと考えてもいいだろう。少なくとも、後味の悪いものにならなかったことだけでも一安心である。 アートグループホームの一泊体験に行きたいと自ら希望した美路人(坂東龍汰)。それは洸人がライオンを助けに行けるようにということであり、前回のラストシーンで示唆されたように、美路人が洸人のもとを離れてひとり立ちに向かって着々と成長していることを予感させる。その頃、周囲の人物から見放されて完全に孤立してしまった祥吾は、愁人を連れてとある場所へと向かう。それは祥吾が橘家に養子として入る前に暮らしていた養護施設。しかしすでに閉園しており、祥吾は文字通り居場所を失ってしまうことになるのだ。 愁人を見つけるために、柚留木(岡山天音)にふたたび協力を持ちかける洸人。ここで愁人が肌身離さず持ち続けていたライオンのぬいぐるみに仕掛けられたGPSと盗聴器が大いに役に立つ。第2話でそれが最初に描かれた時にはミステリアスな要素のひとつとして見えていたものが、第5話では愛生が愁人の声を久しぶりに聞くきっかけとなり、今回はこうして愁人を救うために機能する。 また、ぬいぐるみのなかに入れられたメモ帳も然り。以前は愛生から愁人へのメッセージが記されていたが、今回は洸人から愁人に対して。いずれも必ず迎えに行くという言葉が綴られており、このぬいぐるみこそが物語と登場人物たちをつなぐ重要なキーアイテムとなってきたことが改めて証明されたのである。 愛生を救出し、愁人を祥吾から守ることにも成功した後半。一時的に音信不通になっていた柚留木の居場所を突き止めて会いに行く愛生。屋上で語られる、柚留木が白い服を着ている理由と、それを聞いた愛生が話す“白”の持つ意味と「似合っているよ」の言葉。先述のGPSと同様、登場した時にはミステリアスな存在だった柚留木が、回を追うごとにしっかりと輪郭を与えられ、物語の主人公である洸人と同じように“自分の弱さ”と“他者への共感”をあらわす役柄としてあり続けるのを見ると、おそらくこのドラマの作り手が最も描きたかったキャラクターが彼なのだろうと察することができる。彼が愛生の提案を受け、小森家に「ただいま」と“帰って”きて、「おかえり」と受け入れられることに、(たとえドラマ内で描かれないとしても)期待せずにいられない。 さて、愛生と愁人、そして美路人と四人暮らしになった小森家。洸人は牧村(齋藤飛鳥)と貞本(岡崎体育)に呼ばれて大学生の時以来(つまり美路人と暮らし始めてから初めて)、家ではない場所で酒を飲む機会を得る。翌日は昼までぐっすり寝て、みんなが出かけた後にリビングで一人カップラーメンをすする。それは洸人の日常がこれまでから大きく変わった瞬間である。美路人がひとり立ちをすることと、洸人が洸人の道を進んでいくことは自ずと連動する。おそらく最終話は、小森家の兄弟の未来図に徹した物語が運ばれるのだろう。
久保田和馬