「こんにちは。自殺ですね?」 死後の手続きを行う“死役所”を舞台に繰り広げられるヒューマンドラマ【書評】
どこまでも死に対して、死者に対してフラット。そんな彼らの平静さがどうしても死に過敏になりがちな、生者である我々読者にとってもありがたい温度感なのである。しかし当然だが、今や死にすっかり慣れてしまった職員たちにも生者だった頃が、我々や役所に来る死者たちのように、死にセンシティブだった頃が必ず存在する。役所を訪れる死者のみならず、役所の職員たちにも、それぞれのドラマがある。 物語の案内人として存在する彼らのバックボーンもまた、本作の一段深い所にある魅力として読者を惹きつけるのだ。
その中でも本作の主人公たるシ村は、普通の作品であれば、ある意味一番主人公らしくない存在である。常に能面のような笑顔を貼り付け、粛々と日々訪れる死者の応対をこなす。まさしく「役所仕事」という言葉がぴったりの振る舞いで、他の職員から苦言を呈されることもしばしば。非常に謎の多い、腹の底が読めないタイプの男だ。 しかしこの『死役所』は先述の通り、センシティブな死というテーマに対してフラットな視点で描かれた作品である。だからこそ人間味の少ない、常日頃淡々とした姿勢を貫く彼は、今作に限りまさしく主人公として最適な存在とも言えるのだろう。そんな彼が冷静さの裏に抱える大きな秘密も、大勢の読者の興味を惹きつけてやまない一面でもある。
連載開始から10年以上。すでに作中ではシ村の正体やその目的についても明かされる中、大勢の死者のエピソードと共に物語は引き続き展開されている。 たくさんの人々の死のドラマに、あくまでストーリーテラー的存在で伴走してきたシ村。ここから先の展開で、彼がストーリーの主役となる日もおそらくどこかで訪れるだろう。彼の死にまつわる物語、そしてその顛末も、しっかり最後まで見届けていきたい。 文=ネゴト/ 曽我美なつめ