実は福澤諭吉も言っていた!「東大の学費を値上げすべき」と慶應義塾長が提言した背景にある“伝統”とは(レビュー)
「国立大の学費を年間150万円に値上げすべき」――慶応義塾長が文部科学省の審議会で提言して、物議を醸している。SNSでは「低所得者層が進学できなくなる」など反発の声が広がった。 だが、東京大学に対抗しようとした人々の歴史を描いた『「反・東大」の思想史』(尾原宏之、新潮選書)には、実は慶応義塾の創立者である福澤諭吉も、同じ趣旨の発言をしていたことが記されている。 同書を読んだ法政大学教授の河野有理さんと、東京女子大学学長の森本あんりさんが、「反・東大」側が繰り広げてきた闘争の歴史について語った。 ***
■日本における「反知性主義」?
河野:尾原宏之さんの『「反・東大」の思想史』(以下、『反・東大』と表記)を読んで、この本をめぐって対談をするなら、ぜひ『反知性主義』の著者である森本あんりさんにお願いしたいと思いました。というのも、まさにこれは日本版の『反知性主義』として読めますし、またそのように読むべきだと思ったからです。 森本:ありがとうございます。アメリカにおける反知性主義(anti-intellectualism)とは、名門大学出身のインテリ階級が権力と結びつくことへの反感であり、キリスト教の信仰復興運動(リバイバリズム)から生み出されたイデオロギーです。それは「ハーバード主義・イェール主義・プリンストン主義」(Harvardism, Yalism, Princetonism)への反抗という側面があると拙著でも説明しましたから、日本で言えば、たしかに「反・東大」になりますね。 河野:尾原さんの本は、労働運動における「反・東大」を扱った第7章以外は、すべて大学を舞台にした話になっています。それだけに、われわれ大学教員にとっては非常に身につまされる話が多いですね。 森本:たしかに(笑)。教員の目線からしても学長の目線からしても、現在の大学改革の話に通じるような議論がすでに明治大正期から行われていたことを知って、とても興味深く思いました。