7000人診察して見えた、「根性論を持ち込む上司」がいまだに存在する「単純な理由」
根性論を押しつける、相手を見下す、責任をなすりつける、足を引っ張る、人によって態度を変える、自己保身しか頭にない……どの職場にも必ずいるかれらはいったい何を考えているのか。5万部突破ベストセラー『職場を腐らせる人たち』では、これまで7000人以上診察してきた精神科医が豊富な臨床例から明かす。 【写真】知ったら全員驚愕…職場をダメにする人の「ヤバい実態」 食品会社で営業部長を務める50代の男性は、「営業で大切なのは気合と根性」と日々力説し、何軒訪問したか、何人に電話したかを毎日報告させ、少ないと「気合が足らん」と激高する。しかも、自分が若い頃気合と根性で営業成績をあげた話を何度も繰り返す。残業を暗に強要し、定時に退社した社員がいると翌日デスクを廊下に出したこともある。
気合と根性を力説する上司の根底に潜む現実否認
この部長のような営業職に多いのが、体育会系の根性論を仕事にも持ち込むタイプだ。「ノルマが達成できないのは気合も努力も足りないからだ」「根性さえあれば絶対にできるはずだ」などと力説し、現実的に無理な目標を達成させようとしたり、計画不足を根性論で無理やり何とかしようとしたりする。 こういうタイプは、自分がやって成功した手法は、他人がやってもうまくいくはずと考えがちで、部下に対して過干渉になりやすいように見受けられる。景気がよく、押せ押せが通用した時代なら有効だったかもしれないが、日本経済全体が停滞し、可処分所得も減少している現在、このような手法が通用するとは到底思えない。 もちろん、気合と根性という決まり文句で部下を鼓舞すれば業績があがるのなら、それに越したことはない。しかし、それが幻想にすぎないことに誰もが気づき始めている。にもかかわらず、気合と根性をことさら強調するのは、目の前の現実から目をそむけたいからだろう。 根性論を持ち込む上司は「みんながやる気を出せば、すべてがうまくいく」と考えがちだが、こうした思考回路の根底にはしばしば「~だったらいいのに」という願望と現実を混同する傾向が潜んでいる。「すべてがうまくいけばいいのに」という願望と「すべてがうまくいく」という現実を混同するわけで、これを精神医学では「幻想的願望充足」と呼ぶ。この「幻想的願望充足」は子どもに認められることが多いが、成長するにつれて否が応でも目の前の現実と向き合わざるを得なくなると、次第に影を潜める。 ところが、なかには大人になっても「幻想的願望充足」を引きずっている人がいる。これは、目の前の現実を受け入れられず、直視したくないため、つまり現実否認の傾向が強いためと考えられる。 現実否認の傾向が強いほど、自分が若い頃気合と根性で営業成績をあげた過去の栄光をしきりに持ち出す。この部長も、「あの頃俺はすごかった」「自分が○○の契約を取ったときは……」などと過去の栄光を自慢するそうだが、裏返せば、目の前の現状を直視したくないからだろう。 つづく「どの会社にもいる「他人を見下し、自己保身に走る」職場を腐らせる人たちの正体」では、「最も多い悩みは職場の人間関係に関するもので、だいたい職場を腐らせる人がらみ」「職場を腐らせる人が一人でもいると、腐ったミカンと同様に職場全体に腐敗が広がっていく」という著者が問題をシャープに語る。
片田 珠美(精神科医)