<三南プライド・’21センバツ>高校野球界の先駆け/上 少年野球体験会 喜び共有、振興貢献 /静岡
◇子どもたちの「憧れの存在」に 「アンパンマンに向かって投げてごらん」。選手たちがしゃがみ込み、保育園児に目の高さを合わせて話しかける。軽いスポンジボールを手にした子どもたちは、ボールが的まで届くと、満面の笑みを浮かべた。「もう1回、やってみよう」。促された子どもたちは夢中になって、ボールを投げ続けていた。 2020年12月19日、三島南高校のグラウンド(三島市)で保育園の年長から小学2年生までを対象にした野球体験会が開かれた。鬼ごっこで体を温めた後、選手たちからボールの投げ方を手取り足取り教わり、ミニゲームを楽しむ。体験会が終わると、「もう終わり?」と名残惜しそうな子どももいた。 体験会のプログラムは、1週間ほど前に選手たちが決めた。練習開始前に教室に集まって、グラウンドでの配置を含め、ゼロから話し合った。伊藤侍玄(じげん)主将(2年)は「野球体験会はチームの『伝統』になっている。先輩たちが教えている姿を見ながら、自分たちも学んできた」と話す。 三島南高野球部による子どもの野球体験会、教室は14年12月、チームが市内の保育園に出向いたことがきっかけで始まった。13年に高校に赴任した稲木恵介監督(41)は市内の野球人口の減少を目の当たりにしたという。「子どもたちに野球の楽しさを伝えたい」との思いから、学校の代休日を活用し、保育園や幼稚園と交流するようになった。 日本高野連などは18年、「高校野球200年構想」を発表。稲木監督は「本格的に振興に取り組もう」との思いを強くする。(1)園児との交流(2)小学生への振興(3)少年野球への技術伝達――との三つのコンセプトを考案して、「年に1回のイベント」に終わらない系統立てた取り組みにすると誓った。 まず、園児に遊びの一つとしてボールなどに触れる楽しさを知ってもらう。次に、未経験の小学生が野球に触れる機会をつくる。仕上げとして、少年野球チームの小学生に技術を伝え、できる喜びを共有する。三つの段階を踏むことで、一人でも多くの子どもに中学や高校でも野球を続けてもらう狙いがある。 これまでに開催した野球体験会、教室は31回。参加した子どもたちは1000人以上に上る。プロ野球や東京都高野連の関係者が視察に訪れたこともあり、取り組みは野球振興のモデルケースの一つとなっている。 センバツへの初出場が決まった1月29日。稲木監督は選手たちを前に「1000人の子どもたちが皆のプレーを楽しみにしている」と呼びかけた。自分たちの姿を見て、地元の子どもたちが野球に興味を持ってくれたら――。選手たちにとって阪神甲子園球場は、子どもたちの「憧れの存在」になるための挑戦の舞台でもある。 ◇ 三島南高が3月19日に開幕の第93回選抜高校野球大会(毎日新聞社、日本高野連主催)に県勢初の21世紀枠代表として出場する。創立100年超の高校は三南(さんなん)と地元で親しまれ、生徒は伝統校の自覚(プライド)を持って行動する。野球部は20年が創部100年の節目だった。慣例にとらわれず、高校野球の将来像を見据えて先進的な活動を続けるチームの姿を紹介する。【深野麟之介】