震災で3人の子供を失い、絶望した男性の心を救った米国人女性の遺志 津波で亡くなった外国人と日本人の絆を取材した一冊 #知り続ける(レビュー)
本書では、東日本大震災で亡くなったそれぞれの外国人が、どのような経緯で日本の東北まで来て、そこでどのような暮らしをしていたのか、その人となりが彼らと関わりをもった人への取材から描き出される。外国人コミュニティの存在や在留資格の問題などあらためて知る話も多く、彼らの日常がいかにアンビジブルなものとして扱われているか、考えさせられることも多かった。そういう意味で本書は、かつて起こったことを書いているだけではなく、いま実際に起こっている話でもあるのだ。 大切な人を失ったあとも、残された人は自分の人生を生きていかなければならない。津波で我が子三人を失い、そのことで自らを責め続けている遠藤伸一さんを書いたラストの章も胸を打つ。テイラーの両親は娘の遺志を継ごうと、被災地の小中学校に英語の本と本棚を寄付する「テイラー文庫」の活動を続けているが、遠藤さんがその本棚を作っているのだ。津波で子どもを失い、生きる意味すら失いかけた男性が再び生かされたのは、同じく津波で犠牲になった外国人女性の、明るい前向きな意志によってだった。 涙を流しつくしたあとでも、人は何とか立ち上がろうとする。その力を与えてくれるのは、心ならずも犠牲となった「あの人」の面影――彼らは生者の記憶の中で、いまだ生き続けているのである。 人はいかに生きるべきなのか。 ここで読者は、自分が〈普遍〉に触れていることに気がつくだろう。読むと自らに返ってくる、生きる手触りのあるノンフィクションだ。 [レビュアー]辻山良雄(「Title」店主) 協力:新潮社 新潮社 Book Bang編集部 新潮社
新潮社