トラック業界は必ずしも歓迎せず! トラックの高速の制限速度を80→100km/hに引き上げる案への声
トラックの高速道路制限速度の引き上げが検討されている
その昔、大型トラックはキャブの上端に速度に応じて点灯する、緑の3連ランプが取り付けられていた。これによって外からトラックの速度が掴みやすいため、トラック運転手は派手に飛ばすことができない環境に置かれていたのだ。 【写真】トラックドライバー同士では通じる!? 「カンカン」ってなに? しかし、過酷な労働環境とモラルの低下か、高速道路において大型トラックによる重大な交通事故が多発。これを受けて警察庁と国土交通省は、2003年より大型トラックの最高速度を制限するスピードリミッターの導入を決めたのである。 これによって大型トラックの最高速度は90km/hに制限され、高速道路上の制限速度は80km/hとなったのだった(大型トラックなどの後部には速度抑制装置付というステッカーが貼られている。これは90km/hで作動するスピードリミッターが装着されているという意味だ)。速度が低下すれば、前方の渋滞に気づくのが遅れても、急制動によって速度が落ち、最悪の場合に衝突しても損傷の軽減が見込める。 さらに、2013年には衝突事故軽減ブレーキ、いわゆる自動ブレーキの搭載を義務化して、ドライバーのミスを車両側がサポートする構造が取り入れられている。 しかし、その間にも物流の取扱量は増大を続け、ドライバーの負担は増すばかり。働き方改革に伴う労働環境の改善もあって、残業時間に制限が与えられたため、2024年度からは物流がパンクすることは必至だ。 そのため、物流の効率化や人材不足対策に、再び大型トラックの高速道路制限速度を引き上げようという案が出ている(決定ではなく案として検討している)。80km/hを100km/hに引き上げ、3割近いスピードアップをするので1日の取扱量が増やせる、ということを目論んでいるのだろう。
「荷物を捌ききれないから」で制限速度を引き上げていいのか?
しかしながら、運輸業者のなかには、この制限速度引き上げを歓迎しているところばかりではなさそうだ。そもそも大きく重い大型トラックやトレーラーが事故を起こすと、その運動エネルギーの大きさから衝撃力が凄まじく、被害が甚大になる。それゆえ、制限速度を80km/hに落としたのに、「荷物を捌ききれないから」という理由で、制限速度を引き上げていいのだろうか? 制限速度を引き上げると走行中のタイヤバーストなどの危険性も高まることから、ドライバーの安全面に支障が出る可能性もある。それに、現在の高速道路の交通量の多さから考えれば、制限速度を引き上げても平均車速はそこまで上昇することは考えにくい。高速道路でも上り坂や低速車両の追い越しなど速度が上下するシーンはいくつもあり、遅いクルマに引っかかったり、上り坂で速度が低下したあとに加速して100km/hにまで到達するのには、乗用車よりかなり時間がかかるからだ。 それに走行速度が3割上昇すれば、それに伴って燃費も悪化する。高速道路を走行中の車両では空気抵抗がもっとも大きな損失であり、空気抵抗は速度の二乗に比例して増加する。荷物の扱い量が増えても燃料代が嵩んでしまえば、利益はなかなか増えてはくれない。 現場のことなど何も知らない役人が考えても、実効性のある施策など構築できる訳がない。1日助手でも勤め、物流の仕事の過酷さ、運送業の大変さを知ってこそ、本当の問題に気付くだろう。 大型トラックの制限速度が高まれば周囲を走る乗用車のドライバーは、トラック同士の追い越しのモタつきから解消されると思っているのかもしれない。しかし、前述のように平均車速はわずかに上がる程度かもしれないし、いまの大型トラックが高速道路上を占める割合は変わらないのだから、それほど改善することはなさそうだ。
トラック魂編集部