よその「積ん読」ってどんなの? 玄関に積まれベランダにはみ出し、祖父の代表作でさえも積まれる…本好きに勇気を与える一冊(レビュー)
読もう読もうと思いつつ、気づけばページをひらくことなく積みあがっていく本の山――。きっと誰もが身に覚えのある光景だろう。 実際“積ん読”ネタはSNSでも定期的にバズっている。「ところがこれを扱う書籍は意外に少ない。特にビジュアル面で“積ん読”を積極的に見せていく企画はあまり見当たらなくて。おそらくは、そこに貼りついている罪悪感や引け目のせいなんじゃないかと(笑)。でも私自身、本が好きで“積ん読”は日常であり生活の一部。この言葉にポジティブな意味を与えたい、というのが立脚点でした」(担当編集者)。 本書は本読み十二人のリアルな“積ん読”事情を現場の写真と共につまびらかにしたものだ。著者は『名著のツボ』等で知られるインタビューの名手にして、自身も増え続ける本の山に埋もれているという書評家の石井千湖。各人各様の“積ん読”談義は多くの読者の共感を呼び、発売翌日には初版のおよそ1・5倍の部数の重版がかかった。 例えば幼少期から読書に耽溺してきた池澤春菜の家では、新しく来た本はいったん玄関に積まれるため来客用のスリッパが出せない。国語辞書編纂者の飯間浩明の書架では『ハレンチ学園』の隣に高島俊男が並ぶ。小川哲宅の積ん読はベランダにはみ出している有様だ。 「本棚紹介って、十人十色でおもしろいですよね。今回の企画は冊数や正解を競うようなものではなく、あくまで皆さんがどう本と向き合っているのかという部分に重点を置きたかったんです」(同) 他にもエッセイストのしまおまほが、戦後文学史に燦然と名を残す祖父・島尾敏雄の『死の棘』を“積ん読”しているという話にはしみじみ勇気づけられる。ページを繰るうちに「通読しなきゃいけない」という強迫観念がほどけていく。 「自分は普段実用書を作っていますが、例えば料理本はそもそも通読するものではないんです。小説だって物語を追うだけじゃなく、文章を楽しむだけでも充分面白いはず。積ん読に罪悪感を覚える必要はない、本の楽しみ方をわざわざ限定する必要はない、と声を大にして伝えたいです」(同) [レビュアー]倉本さおり(書評家、ライター) 1979年、東京生まれ。毎日新聞文芸時評「私のおすすめ」、小説トリッパー「クロスレビュー」、文藝「はばたけ! くらもと偏愛編集室」、週刊新潮「ベストセラー街道をゆく!」を担当、連載中。ほか『文學界』新人小説月評(2018)、『週刊読書人』文芸時評(2015)など。ラジオ、トークイベントにも多数出演。作品の魅力を歯切れよく伝える書評が支持を得ている。 協力:新潮社 新潮社 週刊新潮 Book Bang編集部 新潮社
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