エジソンが推進していた「直流方式」が短期間に駆逐されてしまった納得のワケ
物理に挫折したあなたに。 発売即重版が決まりたちまち4刷となった『学び直し高校物理』では、高校物理の教科書に登場するお馴染みのテーマを題材に、物理法則が導き出された「理由」を考えていきます。 【写真】エジソンが激怒して起こったテスラとの「電流戦争」…直流発電機vs.交流発 本記事では、〈エジソンが激怒して起こったテスラとの「電流戦争」…直流発電機vs.交流発電機〉にひきつづき、直流と交流についてくわしくみていきます。 ※本記事は田口善弘『学び直し高校物理 挫折者のための超入門』から抜粋・編集したものです。
使い勝手がよい交流方式
エジソンが推進した直流方式の敗因について、もう少し考えてみよう。 電力は高電圧で送ったほうが損失が少ない。高電圧で送ったほうが電流が低くなり、送電線での発熱が抑えられるためだ(『学び直し高校物理』Chapter17「ジュールの法則」参照)。 白熱電球の場合は発熱は多いほうが明るくなるので電流が高いほうが都合がいい。しかし、導線で遠方に電気を送ることを考えると、途中で発熱で失われるエネルギーが少ないほうがよいので、電流は低いほうがいい。 では送電において、電流を低くするにはどうしたらいいのか。遠方まで電気を送る場合、導線の長さが決まっているから、電気抵抗は決まっている。となれば、できることといえば、電圧と電流の調整だ。発電機が生み出す電力は以下の式で表すことができる。 ---------- 電力(ワット)=電流(アンペア)×電圧(ボルト) ---------- 電流と電圧の組み合わせは無数にあるが、エネルギー保存則に支配されるので、電圧が変わっても電流と電圧の積は変わらない。つまり、高電圧にすれば、電流は小さくなるので、電気抵抗で熱になって失われてしまうエネルギーは減る。これが高電圧のほうが失われるエネルギーが少ない理由である。 エジソンの直流方式が短期間に駆逐された背景には、交流方式が直流方式に比べて送電ロスが少ないことに加えて、電圧の変換が容易であるという長所があった。というのも、工場ならいざ知らず、家庭や事業所などで、実際に電気を使うときには電圧を下げないと危険極まりない。すなわち「使うときは低電圧、送るときは高電圧」にする必要がある。 これを実現するためには電圧の高さを制御する、いわゆる変圧作業が必要だが、当時の技術では、直流電流の変圧は難しかった。なぜなら変動しない直流電流では、変動しない磁場しか作れない。当然のことながら、変動しない磁場では電流が流れない。 一方、交流電流は、何もしなくとも、電流の高さや向きが変動するので、変動磁場を簡単に作り出すことができる。変動磁場は変動電流を作るので、 ---------- 交流電流→変動磁場→変動電流 ---------- という形で簡単に電圧を変換できたからだ。これが、電圧を制御する変圧器の原理である。 この変圧器の原理(次の図)はいまでも普通に使われている。ブラウン管や白熱電球、電話といった昔の技術がいまでは表示装置、照明、音声通話というそれぞれの技術分野で使われないか、主役の座を失ってしまったのに比べると、テスラが考案した、交流発電→変圧器→交流送電→変圧器→モーターという枠組みはいまでも第一線で健在である。 これまで、発明家というと、白熱電球や映画を生み出したエジソン、電話を作ったベルなどのほうが圧倒的に知名度が高かったが、近年、ニコラ・テスラへの注目度が急激に高まっている。伝記映画が作られたり、テスラが魔法的な科学のブレイクスルーを果たしていたという設定のフィクションが創作されたりするのもうなずける。 テスラがマンハッタンのニューヨーカー・ホテルで孤独に世を去ってから、およそ80年という時間が流れて初めて、誰がいちばんすごい発明家だったかようやくわかる、これが現実なのだ。