【西武投手王国への道】キャッチボールへの意識を改善『生きた教材』となった守護神「打たれようが、何しようが、増田はいつも変わらない」(豊田コーチ)
【埼玉西武ライオンズ 投手王国への道】 5年ぶりの優勝を狙う西武の最大のストロングポイントである投手陣。近年、急速に力をつけてきたが、その裏には一体、何が隠されているのか。ライオンズ投手王国への道を追う――。 取材・文=中島大輔 写真=湯浅芳昭 【選手データ】増田達至 プロフィール・通算成績・試合速報
東尾監督に教わった「1球への思い」
2023年12月8日に第2回現役ドラフトが終わった直後、当時広島に在籍した右腕投手の中村祐太は球団の担当者から電話を受けた際、思わず口をついて出た言葉がある。 「ありがとうございます」 自身が現役ドラフトで対象となったと知らされ、移籍先を聞くと「ライオンズ」と伝えられたからだ。 「すごく楽しみになりました。ライオンズのピッチャー陣はいいので、どんなことをしているんだろうと。トレーニングも見たかったし、どういう意識でやっているのか話も聞きたかったので」 10年間在籍した広島から今季西武にやって来た中村の言葉を聞くと、あらためて時の経過とともに起こった変化に驚かされる。確かに近年、西武の持ち味は盤石な先発を中心とする投手陣だが、少し前までチームのウイークポイントとも言えたからだ。 チーム防御率の変遷を見ると一目瞭然だ(カッコ内はリーグ順位)。 ・18年 4.24(6位) ・19年 4.35(6位) ・20年 4.28(6位) ・21年 3.94(6位) ・22年 2.75(1位) ・23年 2.93(2位) リーグ連覇を達成した18、19年は自慢の“山賊打線”におんぶに抱っこだった。それが辻発彦監督最終年の22年から大きく改善されている。 転機は20年、豊田清コーチが現役時代の05年以来となる西武復帰を果たしたことだった。 「豊田さんは西武に来てから『1球を大切にしろ』とずっと言っていましたね。『キャッチボールをしっかり意識してやろう』って」 そう振り返るのが、チーム最年長投手の増田達至だ。現在はチームスタッフで元投手の十亀剣や榎田大樹が現役時代、若手の姿勢に苦言を呈していたが、着任直後の豊田コーチも同様に感じたという。 当時の西武投手陣は与四球の多さが課題だった。登板直後の投手がストレートの四球を与えることも珍しくない。どうすればストライクゾーンで勝負させられるだろうか。 「東尾(東尾修)さんから教わったことを実践しよう」 豊田コーチはプロ入り3年目から7年間ともにした東尾監督に教わった「1球への思い」を継承すべく、キャッチボールを見つめ直した。 「練習は大体の時間に始まり、まだスパイクを履いている途中の人やグラブを持っていない人もいる。時間にすごくルーズだった。意識が薄いんだなと。キャッチボールを見ていると、例えば一人が軽くポロっと落とす。すると連鎖して誰かが暴投する。ミスが一つ起こると連鎖するのはジャイアンツでファームのコーチを担当しているころにも感じたので、そこから直していこうと」 練習での意識が甘いから、試合でマウンドに登っても打者と勝負できない。それが無駄な四球につながっているのではと豊田コーチは考えた。 「練習中にミスが起こると連鎖するように、試合でも四球を出したら次の投手も出してしまう。そういうのはつながっているのではと考えて、『キャッチボールを丁寧にいこう』という声かけを5年前から始めた」