「月100時間の残業は“普通”だった」激務の広告業界を経て、“パワハラ対策”の資格を創設した男性の挑戦
仲が良かった上司から「裏切り者」扱いされ、閑職に
――見聞きした中でひどかったエピソードがあれば教えていただけますか? 大田:ある広告代理店の元社員の話です。とても仲良くしてもらっていた上司がいたそうです。しかし退職の意志を伝えた途端、上司が豹変し、「裏切り者だ」と言われたそうです。それから、退職までの1ヶ月間、社用スマホもパソコンも没収されて、別室でずっと過ごさせられたというんです。もちろん、有給消化もさせてもらえません。上司は「情報漏洩をする可能性があるから」という言いがかりを貫いたと言うから、驚きです。 この事例についても、やはり部下の辞めるという行動が会社を裏切ったとみなされるなど、上司の極端な正義が暴走していますよね。 ――そうした事例を多く知っているからこその「雇用クリーンプランナー」創設なのですね。最後に、大田さんが描く未来像について教えてください。 大田:私が知っている事例は世の中のほんの一部であり、しかも事件化されていないものでさえ悪質なものがたくさんあります。やっている当人が、まかり間違えば犯罪の加害者になっているという自覚さえなく、むしろ良いことをやっていると思いこんでいる節さえあります。 雇用クリーンプランナーの資格を取得すること、あるいはこの資格が世間で認知されていくことは、すぐに世の中を改善するには至らないかもしれません。でも、ひとりひとりが自分の半径2メートルの人間関係において「これはハラスメントじゃないか?」と考えることは、少しずつだとしても世の中を前進させていけるのではないかと考えています。 パワハラが単純な構造ではなく、もっと人間同士のやり取りの奥底で起きると知っているからこそ、リテラシーを浸透させていけたらと思って取り組んでいるんです。 ===== ハラスメントは容易に人を殺める。生きるための労働が、人に死をもたらす途方もなく悲しい皮肉が、今もなお起きている。組織の理論に染まった”正義の人”が後進を使い潰して功を上げ、それが称賛されるグロテスクな構造を破壊することでしか、どんな立派な目標も絵空事に終わってしまうだろう。 雇用クリーンプランナーは、濃密で複雑に絡み合う人間関係のなかを生き抜いた大田氏の発明といえる。その発明がいつの日か組織の暴走の歯止めになるよう願ってやまない。 <取材・文/黒島暁生> 【黒島暁生】 ライター、エッセイスト。可視化されにくいマイノリティに寄り添い、活字化することをライフワークとする。『潮』『サンデー毎日』『週刊金曜日』などでも執筆中。Twitter:@kuroshimaaki
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