「月100時間の残業は“普通”だった」激務の広告業界を経て、“パワハラ対策”の資格を創設した男性の挑戦
「会社のため」にパワハラが増長していく
――大田さんが考える“パワハラ”の問題性はどのようなところにありますか? 大田:世間では、パワハラは職場いじめに近いイメージで語られることがありますが、いじめと違うのは、会社としての理想を追求していくなかで起きやすいという構造だと思います。具体的にいうと、会社の売上をあげるという目標のために生産性を重視しなければなりませんが、そうした状況の中で労働強化が起きてきたり、生産性の低い社員に対する厳しい風当たりがあったりするんです。 パワハラをする上司も、最初からそうした上司像があったわけではなく、むしろ「会社のため」という正義に突き動かされてパワハラが増長していく場面も多々あります。 ――高いノルマ設定と忙しなく働くという意味では、失礼ながら、大田さんが在籍した広告業界や不動産業界はパワハラが起きやすそうですよね。 大田:まさにこの目で見てきたことが、現在行っているパワハラ防止策の原動力かもしれません。多くの上司を見てきて感じたことは、「この価値観が正義」という軸が固まっている人ほど、その価値観に合わない言動をする部下を許せません。そして、「正義」に基づいて部下を詰めてしまうんですよね。
「お前なんか博報堂に入れるわけない」と言われ…
――大田さんもそうした体験をされたのでしょうか? 大田:それはもう(笑)。今にして思えば、広告業界にいたころは月の残業が100時間というのは普通で、それを超えてからやっと「今月は残業しているなぁ」という感覚でした。クライアントからの連絡が来るので24時間スマホは手放せず、返信したと思っていたメールも夢の中でしていただけで現実にはしていなかった……なんてこともありました。 広告業界は華やかな業界で、その分ありがたいことに楽しい仕事をたくさんさせてもらえました。国民的な女優さんとお仕事をさせていただいたり、オリンピックを間近で見られるなど、得難い経験もしました。ただ、残念ながら、そうした活力のある業界だからこそ、そのパワーが別の方向へ向いたときの怖さもあります。 私はADKから博報堂へ転職しましたが、転職の際、ADK出身で博報堂の役職付きになっているOBがいると聞いて、相談に行きました。軽くお茶をしようと言われ伺ったのですが、なぜかそこから2時間近く詰められて、「お前なんか博報堂に入れるわけない」とまで言われました。そのあと中途採用で合格したわけですが、なんと、そのOBの部下になってしまって(笑) ――それ気まずいですよね。 大田:相当気まずいですよ。やはりその上司はかなり厳しいことで有名で、私は何とか残ったものの、結局、チームの4~5名が辞めていきました。今はその上司について特に何も思いませんが、「あの経験が私を育てた」みたいな美談にはなかなかなりにくいですよね(笑)。