和倉温泉 旅館再建、護岸から 眺望良い海ぎわに立地 年間80万人集客
元日の能登半島地震は、北陸屈指の湯の街からにぎわいを奪い去った。能登観光の拠点である七尾市和倉温泉。発生から5カ月余りたった今も鉄骨がむき出しとなった建物が残り、七尾湾に面する護岸は崩れ落ちたままだ。能登が未曽有の震災から「創造的復興」を果たすには、年間80万人の集客力を誇る和倉の復活がカギとなる。現状と課題を追った。(七尾支社長・安田佳史) 【写真】多田屋の建物と護岸の間にできた溝。露天風呂から釣りができるのが売りだった 波穏やかな七尾湾で5月23日、船に積まれたクレーンが工事を進めていた。元日の地震で和倉温泉一帯の護岸が崩れたため、土のうを積んでいるのだ。放置すれば、海に面した旅館の建物が波にさらされ、被害を受ける恐れがある。 和倉温泉の大きな旅館は七尾湾側に集中している。日本一のおもてなしで和倉の名を全国に轟(とどろ)かせた「加賀屋」など多くの旅館が護岸ぎりぎりに立つ。海ぎわに立つからこそ、すぐそこに広がる「海の眺望」が大きな武器となった。 その武器が地震で大きく傷ついた。延長4キロに及ぶ和倉温泉の護岸で崩落や亀裂が相次いだのである。 和倉は「能登観光の中心」だ。和倉で七尾湾の絶景を堪能し、奥能登へ足を延ばすのが定番となっている。茶谷義隆市長は「和倉の復活なくして能登の復興はない」と強調する。 その和倉を復活させるには護岸修復が不可欠である。しかし、工事は思うように進んでいない。 ●露天風呂から釣り 旅館「多田屋」では、建物に近接する護岸約130メートルが海側に傾き、建物基礎の土砂が護岸の亀裂から湾に流れ出た。土砂流出は止まらず、建物と護岸の間に幅1・5メートルの溝ができた。 個室の露天風呂は眼前に海が広がり、湯につかりながら釣りを楽しめるのが売りだった。「海の近さが自慢だったのに」。施設管理を担当する古川朋明さん(58)は恨めしそうに語る。 七尾湾側の旅館は地盤沈下で建物が傾く被害が相次ぐ。「美湾荘」の多田直未社長は「護岸が直らんことには何も始まらん」と嘆く。護岸がどう直るかで、建物の改修や修繕の計画が変わってくるのだ。 加賀屋の担当者は「護岸の修繕が最優先なのは間違いない」とだけ明かす。加賀屋の被害や復旧の見通しについて公表はなく、他の旅館からは「何も発信できないのは想像以上に被害が大きいからかもしれない」との声も上がる。 和倉の復旧が進まない背景として、護岸の所有者や管理者の「混在」が挙げられる。解決策として国は、旅館が所有する護岸を行政に移管する方法を提示するがハードルは高い。所有権を行政に移すと、護岸管理用の通路などが必要になる。国は幅約3㍍の新たな護岸を建設する案を示すが、費用は約100億円、完工まで最低2年かかる。 ●石川の観光に厚み 「能登は金沢の奥座敷。その中核を担う和倉が元気にならないと、石川県全域の誘客に影響する」。県観光連盟の庄田正一理事長はこう指摘する。能登には世界農業遺産に認定された里山里海をはじめ、金沢にない魅力があるとし「能登がよみがえれば石川の観光に厚みが出る。そのためには、まず和倉が立ち上がらないといけない」と語った。 開湯1200年の歴史を誇る「海の温泉」。その復活を待ちわびるのは、能登の関係者ばかりではない。