坂井瑠星騎手（左）は矢作芳人調教師と何度も取材に対応した

　凱旋門賞（仏ＧＩ）が終わって早１０日以上が過ぎた。今年の日本勢はシンエンペラー（牡３歳、栗東・矢作芳人厩舎）が坂井瑠星騎手で挑み、アイルランド調教馬ではあるがアルリファー（牡４歳、Ｊ・オブライエン厩舎）にはレジェンド・武豊騎手がまたがった。 　皆さんご存知の通り、結果は残念ながらそれぞれ１２、１１着。日本ホースマンの悲願はまた来年以降に持ち越された。 　そんな中、表には現れない部分で両陣営のファン思いの姿勢に幾度となく接したので、今回はその一部を紹介させていただく。 　大一番２日前の金曜日早朝。シンエンペラーが滞在するシャンティイで、主催者のフランスギャロが音頭を取る形で陣営の共同記者会見が行われた。地元メディアや日本から訪れた報道陣の質疑に応じたのは矢作調教師と坂井騎手。２人は時に冗談を混ぜながら、１つ１つの質問に対し、丁寧に答えてくれた。その内容には集まったマスコミの誰もが、納得したことだろう。 　しかし、同時に国内外のテレビ局を始め、各社は独自の絵がほしい。そこで、共同会見とは別にその前後にフィルムを回すことになる。かく言う私も、今回は３社ものテレビ局から協力を求められ、そのうち１社は私自身がカメラを構えることになった。先述した通りどの局も欲しいのは独自の絵なり映像なり。なので、質問自体に大きな差異はない。つまり矢作調教師や坂井騎手からすれば、同じ質問を何度も繰り返されるわけだ。 　しかし、２人は嫌な表情など全く見せず、それどころか「じゃ、まず今のうちに●●さんやっちゃいましょう」という感じで積極的にカメラの前に立ってくださった。実はこれ、今回だけの特別な話ではなく、毎度のことではあるが、大レース前で「できることなら放っておいてほしい」と言われても仕方ないシチュエーションにもかかわらず、全面的に協力してくださるのだ。レンズの向こうにたくさんのファンがいることを分かっているから取れる姿勢に感銘を受けたものだ。 　これは武豊騎手も同様。同じ金曜日の昼、場所をサンクルー競馬場に移すと、そこには現地の競馬を観戦しに来た武豊騎手の姿があった。ここでも各社が次から次へと質問を繰り返し、時にカメラを向けた。全く同じことを聞かれても、全て笑顔で答えていた。 　師匠の矢作調教師や先輩の武豊騎手がそうなのだから、坂井騎手も当然、同様の姿勢で応じてくれた。 　矢作厩舎には「実るほど首を垂れる稲穂かな」といった箴言（しんげん）が掲げられているそうだが、まさしくそんな対応だ。われわれを含めたファンが矢作厩舎や武豊騎手を応援したくなるのも当然だと、彼等の姿勢を見て、改めて感じた。（平松さとし）