「コンピュータ」か「コンピューター」か...翻訳者を翻弄する、出版業界の「ややこし過ぎる表記ルール」
小説家、漫画家、編集者、出版業界の「仕事の舞台裏」は数あれど、意外と知られていない出版翻訳者の仕事を大公開。『スティーブ・ジョブズ』の世界同時発売を手掛けた超売れっ子は、刊行までわずか4ヵ月という無理ゲーにどうこたえたのか? 『「スティーブ・ジョブズ」翻訳者の仕事部屋』(井口耕二著)から内容を抜粋してお届けする。 【漫画】頑張っても結果が出ない…「仕事のできない残念な人」が陥るNG習慣 『「スティーブ・ジョブズ」翻訳者の仕事部屋』連載第6回 『訳出スピードは「三割遅れもザラ」...それでも著者が通常の二倍速の無理スケジュールを成し遂げられた「舞台裏」』より続く
「コンピュータ」か「コンピューター」か
ふつうなら、漢字とかなの書き分け方や、カタカナ語の書き方など、いわゆる表記も、対象となる読者層に合わせて調整します。しかし今回は、「講談社ルール」で統一されています。時間があるふつうの場合は、出版社のルールと異なる部分については相談しながら決めてゆくのですが、今回、もともと時間不足で難しかったのに加え、最後の最後に刊行時期が4週間もくり上がってしまい、そういう相談をしている時間が文字どおりなくなってしまいました。 たとえばどういう影響があるかと言えば、わかりやすい例として「コンピューター」と「コンピュータ」があります。カタカナ語の末尾音引きを発音に合わせてつけるか省略するか、です。これ、一般には、「コンピューター」と入れておくのがふつうです。カタカナは表音文字であり、日本語での発音に近づけるのが当たり前ですから。 しかし、過去、コンピューターの世界では省略されてきたため(コンピューターメモリを少しでも節約しようという涙ぐましい努力が発端だと言われている)IT系、特に技術関連では「コンピュータ」と最後の音引きを省略するのがふつうです。 なお、このあたりの表記について一番の影響力をほこるマイクロソフト社が表記の原則を変更し、「末尾音引きは省略しない」としたので、だんだんとIT系にも「コンピューター」が浸透してゆくものと思われます。
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