「コンピュータ」か「コンピューター」か...翻訳者を翻弄する、出版業界の「ややこし過ぎる表記ルール」
読者層も考慮して…
というわけで、寿命が短いIT系バリバリの文書は「コンピュータ」でもいいのですが、ある程度長く読まれるもの、あるいは、一般向けのものは「コンピューター」にしておくべきだと私は考えています。 今回は当然に一般向けですし、もしかすればそれなりに長い期間読まれる可能性もあるので、「コンピューター」としておいたのですが、編集さんから「コンピュータ」にする修正が入ったのか(講談社ルールでは、「コンピューター」か「コンピュータ」か選んで統一することになっている)、書籍では「コンピュータ」になっています。 なお、固有名詞は、こういう表記の原則とは関係なく、その会社が使っている表記にすべきです。「コンピューター」と末尾音引きを省略しないのが原則の場合も、「アップルコンピュータ」は「アップルコンピュータ」なわけです。 また、ふだんあまり本を読まない人が読むことも考え、漢字は開き気味にしていて(漢字ではなく、かなにすることが多かったということ)、実際、講談社さんに提出した訳稿は少し開きすぎなくらいに開いてありました。最後にやりすぎた部分を調整で閉じる(かな→漢字にする)つもりだったのです。でも結局、そういう細かな調整をしている時間はなく、基本的に、こういうハードカバーで一般的な表記になっています(漢字が増えた)。 ただ、しゃべりの部分(カギ括弧に入っている部分)だけは極力触らないでくださいとお願いしておきました。ここは初校の段階で「私」と「わたし」、「僕」と「ぼく」など不統一で……という指摘があったので、「人によってわざとわけてあるのでいじらないで欲しい」と伝え、そのつながりから、カギ括弧内はあまり表記をいじらないという話になりました。 このあたり、今回の進行では、私のゲラ読みと並行して校正さんのチェックがあり、その後、校正チェックを参照しつつ編集さんが手を入れるという例外的な形だったので、表記について「ここは考えがあってやっているので元のママ」などと意見を出せるタイミングがなく、基本、講談社さんルールが適用されています。 『どうして「あの時に」...一流の翻訳家が大先輩に対して「守秘義務」を優先した「矜持」とその「悲しい結末」』へ続く
井口 耕二(翻訳者)
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