「モンクレール グルノーブル」2024年秋冬ショーが開催──雪山で体現されたスピリッツ
スイスの高級リゾート、サン・モリッツで「モンクレール グルノーブル」のランウェイショーが行われた。現地に訪れたGQエディターがリポートする。 【写真を見る】会場にはファン・ミニョンの姿も!
雪景色
2月4日(日)、スイスのサン・モリッツの奥深い森の中で「モンクレール グルノーブル」の2024年秋冬コレクションのショーが開催された。総数91ルックに及ぶ大規模なもので、ウィンタースポーツに特化したブランドとは思えないバリエーションに富んだラインアップが印象に残った。 ショーの会場はサンモリッツの中心地からクルマで10分ほど離れた森の中。ウェイティングエリアとして用意されたロッジから、さらに森の奥深くまで10分ほど徒歩で歩いた場所にある。この時点の気温は-7℃。しかし数字以上に寒い。ダウンがないと冷えるし、スノーブーツをはいていないと足元がおぼつかない。事前に配られたショー参加者のために作られた特製の白いダウンケープと、モンクレール グルノーブルの「TRAILGRIP APRÈSブーツ」の高い機能性をあらためて雪山のなかで実感した。 ショー会場への長い道のりの途中、ショーの前にモンクレールとSIGGがコラボレーションしたボトルが配られていた。中身は紅茶、グリューワイン、熱燗といった温かい飲み物。「ホットサケ!」と参加者が喜ぶ。欧米人の酒の発音がここ10年ほどで“サキ”から“サケ”に変わったことに日本酒文化の浸透を感じる。話をもとに戻そう。ショーの席にもバッテリー駆動のカイロとウォームシートが設置され、ウィンターウェアに精通するブランドならではのホスピタリティにあふれていた。また、参加者ひとりひとりにワイヤレスヘッドホンが渡され、ショーで使われる音響はこれを通して体験できるという。実際、耳にかけると周囲の静けさが消え、雪景色と相まって没入感が味わえる。街中で行われるランウェイとはひと味もふた味も違う。プロジェクションマッピングのように照明が照らされた針葉樹の光景を含め、開始の待ち時間がこれほどわくわくさせるショーはなかなかない。 ■雪道 ショーがはじまった。ヘッドホンから流れる音は交響曲を中心とした選曲で空間の荘厳さを際立たせている。参加者が座っているシートからさらに山の上から何人ものモデルが歩いている姿が見える。平らなランウェイではなく、ある程度整地されているとはいえ、雪山道だ。斜度もある。それでも足取りがしっかりしているのは、モンクレー グルノーブルのフットウェアだからだろう。誰一人転倒することもなく、さっそうと歩く。見た目だけでなく、高い機能性を感じる。 ファーストルックは、雪と氷のペールトーンを彷彿とさせるオフホワイトやベージュを基調としたクリーンなカラーパレットが並ぶ。自然を感じさせるグリーンやブラウンなどナチュラルな色彩、そしてモンクレールのアイデンティティであるレッド、ホワイト、ブルーのミックスなど、ワンストーリーではなく、全方位的に盛り込まれたボリュームのあるラインアップだった。ウィンタースポーツ用のヘルメットやスキー板などは、スウェーデン発POC(ポック)をはじめとした数々のギアブランドとコラボしたものが主体だったが、自社開発はおそらく時間の問題だろう。 ファブリックの扱いもモンクレール グルノーブルらしさに溢れている。光沢をおさえ品の良さを強調したシェルジャケット、夜に紛れるほど深いブラックのスキーパンツ、ゲレンデ用にラミネート加工されたフランネルやコーディロイなど、抑制を効かせたアプローチはほかのスポーツブランドとは一線を画す。フィナーレは、ランウェイに総勢135名のモデルがランウェイに並んだ。この時の気温は記録していないが、山深い雪山であることを忘れるような熱気だったことは覚えている。 ■なぜ雪山か ショーが終わったあと、すべての道具立てがモンクレール グルノーブルというブランドを体現していることに気づく。スイスの高級リゾートであるサンモリッツ、陽が落ちた雪山の会場、ホスピタリティ、来場したアン・ハサウェイやケイト・モスなど世界で知られる数々のトップセレブリティ。ラグジュアリーとは豪華であれば完結するものではない。金銭だけでは手に入らない品格と背景がなければ成り立たない。モンクレール グルノーブルのショーは最新のトレンド以上に、ヨーロッパで生まれたウィンタースポーツの醸成を物語っていると思った。
編集と文・岩田桂視(GQ)