至高の「本枯節中華そば」、病で倒れた店主から受け継いだのは…公務員を辞めて挑んだ常連客
魚介出汁(だし)の優しい甘さと深みがある透き通ったスープに、県産の小麦粉を使用した自家製の細麺が絡み合う。「中華そば鍾馗(しょうき)」(長野市上千歳町)の看板メニュー「本枯節(ほんかれぶし)中華そば」(税込み1280円)は、病で倒れた前店主から受け継がれた至高の一杯だ。公務員だった常連客の男性が慣れ親しんだ味を復活させた。(藤井健輔)
中華そば鍾馗は2011年、前店主の村上直人さん(49)が大阪で開業した。約2年後に妻の地元の長野に移り、人気の行列店として、長野駅前を経て現在の場所で店を構えた。
現店主の松村直明さん(29)は、長野市で育ち、大学卒業後に長野県坂城町役場に入った。趣味でラーメン店を巡る中、2018年頃鍾馗に出会う。「思わず最後まで飲んでしまう上品なスープ」のとりこになり、月に1回ほど、休日に片道1時間かけて通った。
だが、22年10月、村上さんがくも膜下出血で倒れ、店を続けられなくなった。翌年の5月、松村さんは店が引き継ぎ手を募集していることをSNSで知る。「また鍾馗のラーメンがある日常を取り戻したい」と、ためらうことなく手を挙げた。飲食業は未経験。安定を捨て、28歳で別の道に挑むことを決めた。
町役場を7月末に退職し、3か月間、村上さんの弟子が営む大阪の支店で修業し、製麺とスープ作りの基礎を習得した。病の影響で村上さんから厨房(ちゅうぼう)で教わることは難しかったが、村上さんが開店以来レシピや客の反応を書き留めていた20冊以上のノートを読み込み、試作を繰り返した。
たどり着いた一杯は、伊吹いりこと羅臼昆布で出汁を取り、さらに、香り豊かな最高級のかつお節・本枯節を加えて出汁をとったもの。かつて夢中になった味を舌が覚えていた。12月に開店すると、早速常連客が訪れ、「また鍾馗に来られると思っていなかった」と再スタートを喜んでくれた。
来月で復活から1年となる。松村さんは「村上さんの味に近づいてきたかな」と手応えを感じつつ、客のアドバイスなどを受け、完全再現に向けて今も試行錯誤を重ねる。「素材にこだわる鍾馗の良さを大切にしながら、ラーメンを通した特別な体験を提供したい」と意気込んでいる。