【齊藤工&竹林亮】「見て見ぬふりをしていた」児童養護施設の日常が教えてくれたこと
「家族」という言葉に執着する必要はない
――施設で共に暮らす子どもたちや職員のことを「家族」と表現する子もいれば、「家族ではない」という子もいました。おふたりは、「家族」とはどんな存在だとお考えですか? また、本作の制作を通じて、家族観に変化はありましたか? 齊藤 人間は“個”では無い、ということを認める象徴の言葉なような気がします。切り離せないとわかっているからこそ、関わる角度や相互関係、お互いにほど良い距離感を取りたい存在なのではないでしょうか。 『大きな家』に関わって、さまざまな家族の形に触れて、僕はこれまで、向こう(家族)からのアングルや矢印に合わせようとし過ぎていた気がしました。互いの理想に縛られていたんじゃないかと。同時に、他人だからこそ、“本家”を超えた家族のような存在にもなれるのかなと、思うようになりました。 竹林 めちゃくちゃ個人的な意見ですが、家族という言葉に執着せず、少しゆるく構えるくらいがちょうど良いのではと思っています。その人との関係を括る言葉を探さずに、大切と思う気持ちを大事にすることで生きやすくなるなら、そっちの方が良いなと。 元々はそんなに意識せずに無頓着に生きてきたところはあったのですが、改めて家族の定義について葛藤する子ども達と会話を続けながら、こちらも色々と考えさせてもらいました。 僕には子どもがふたりいるんですが、これまで、親としてどういう役割を果たせばいいのか、悩みながら過ごしてきたところがあったんですね。社会の目を意識し、親としてのプレッシャーを感じていたというか。進路に関しても、「お前、この先どうするんだ。どの学校を受験するんだ」なんて、子どもに詰め寄ったりして。 でも、この施設を通じて、子どもたちの今の姿を認め、肯定するまなざしを送り続けることで、子どもたちはいろいろなチャレンジができるし、安心して前に進めるんだということを感じました。 おかげで、しつけや進路など、親としてストレスに感じてきた問題が少し小さく思えるようになりました。今は、少し肩の荷を下ろして、子どもに期待し過ぎず、否定もせず、今の姿を肯定するまなざしを送り続けるという、シンプルなことを一番大事にしようとしています。……いつもそうであることは、ちょっと勇気と努力も必要なのですが(笑)。 さまざまなことを気づかせてくれる『大きな家』。この作品は、被写体となった子どもたちだけでなく、観る人にとってもまた、“人生のお守り”になることだろう。 大きな家 2024/日本 監督・編集:竹林亮 企画・プロデュース:齊藤工 配給:PARCO 製作:CHOCOLATE Inc. 2024年12月6日(金)東京 ホワイトシネクイント、大阪TOHOシネマズ梅田、名古屋センチュリーシネマ先行公開、他12月20日(金)全国順次公開 齊藤工/Takumi Saitoh パリコレ等のモデル活動を経て、2001年俳優デビュー。『昼顔』、『シン・ウルトラマン』など数々のドラマや映画で主演を務め、現在配信中のNetflix『極悪女王』やTBS日曜劇場『海に眠るダイヤモンド』など話題作に出演中。俳優業と並行して映像制作にも積極的に携わり、初⻑編監督作『blank13』で国内外の映画祭で8冠を獲得。劇場体験が難しい被災地や途上国の子供たちに映画を届ける移動映画館「cinéma bird」の主宰や全国のミニシアターを俳優主導で支援するプラットフォーム「Mini Theater Park」を立ち上げるなど、幅広く活動している。 竹林亮/Ryo Takebayashi コマーシャル、YouTubeコンテンツ、リモート演劇、映画等、さまざまな映像作品を監督。2021年公開の青春リアリティ映画『14歳の栞』は単館からのスタートだったが、SNSで話題となり45都市にまで拡大。監督・共同脚本を務めた長編映画『MONDAYS/このタイムループ、上司に気づかせないと終わらない』にて、第32回日本映画批評家大賞 新人監督賞・編集賞を受賞。
TEXT=村上早苗 PHOTOGRAPH=干田哲平