なでしこ山下杏也加 厳しく優しい最強GK「勝ちたい一心で」発した言葉のわけ
「パリ五輪・サッカー女子・準々決勝、日本0-1米国」(3日、パルク・デ・プランス競技場) 日本が宿敵の米国とベスト4を懸けて対戦。互いに一歩も譲らず延長戦に突入した。だが、延長前半のアディショナルタイムに1点を失い、日本はベスト8で敗退となった。GK山下杏也加(28)は「米国と戦ってきた中で一番いい試合だった。どっちが点を取ってもおかしくなかった。失点は、自分のポジショニングがもう半歩右だったら、はじけたと思う」と惜敗を振り返った。 最後のとりでであり最強の勝負師、それが山下だ。6月まで3シーズン在籍したINAC神戸では、自身にもチームメートにもサッカーに徹する厳しい一面と、仲間思いの優しい素顔でカリスマ的な存在だった。同クラブの安本卓史社長(51)は「山下は完璧主義者。100%の状態で試合に臨んでこそ最大のパフォーマンスを出す。だから100%じゃない状態では試合に出たくないというタイプ。それほど徹底している。怖いくらい、という言葉が正しいかは分からないが、集中している時のパフォーマンスは素晴らしい」とシビアに試合に臨む姿を表現する。 今年2月の五輪アジア最終予選・北朝鮮戦で日本代表を救った「山下の1ミリ」と勝されるスーパーセーブは、その妥協なき精神のたまものといえるだろう。その完璧主義は時折、チームメートへの厳しい声に変わることもあった。「ゴールキーパーによる後ろからのコーチング(指示)が厳しかったことも。DFの竹重杏歌理とか、山下のコーチングによってだいぶ鍛えられたと思う」と安本氏は明かした。実際、山下が加入したINAC神戸はWEリーグで3シーズン連続最少失点。山下を含めた守備陣の堅さが群を抜いていることが分かる。 6月9日に神戸市内で行われたファン感謝デー。海外移籍準備のため今季限りでの退団が決まっていた山下は、一同に最後のあいさつをした。その言葉は「今までずっと、若い選手にきついことをたくさん言ってごめんね」だったという。山下ははにかみながら続けた。「ただ、それは勝ちたい一心でそういう言葉になったので、相手のことが好きとか嫌いとかじゃなく、チームとして勝たせるための言葉だったという風に受け取ってくれたらうれしいです」。守護神が明かした本音は、チームメートにもファンにも深く響いた。 ◇山下杏也加(やました・あやか)1995年9月29日生まれ、東京都足立区出身。KSC加平サッカー少年団でプレーを始める。村田女子高から日テレ・メニーナ、日テレ・東京ヴェルディベレーザを経て21年にINAC神戸へ移籍。WEリーグ初年度優勝、今年1月の皇后杯優勝に貢献。6月に海外移籍のため退団。19、23年W杯、21、24年五輪代表。170センチ。利き手足は左手、左足。