オーナーの思いが引き寄せた。ごく短期間のみ生産されたフェアレディZの希少個体A-S30Z
2015年、ノスタルジック2デイズに極上でノーマルのフェアレディZが展示されることを知ったオーナーは、すぐに受話器を手にして広島の井原自動車に連絡を入れていた。 【画像17枚】インジェクションモデルの最大の特徴がラジエーター前に青いエアクリーナーボックスが配置されていること。ラジエーターは高機能タイプに変換されている 何年も探していたクルマが目の前に現れ、その気持を抑えることができなかったのだ。すぐに、現車を確認するため、福岡から広島へと向かい、クルマと対面。仕上がりのすばらしさもさることながら、その風格に圧倒されたという。もちろん、購入を決めるまでは数分と時間はかからなかった。 オーナーが手に入れたクルマはL20型エンジンを搭載した初代フェアレディZの中期にあたるモデル。S30系フェアレディZの系譜のなかで、1969~73年が前期、1973~75年が中期、1975~78年が後期と呼ばれており、過渡期となる中期モデルから後期モデルへ変わろうとした時期に生まれたクルマであった。 後期モデルは51年排ガス規制適合車として型式がS31と変更され、インジェクション仕様になっていることは読者んの皆さんはご存じだろう。しかし、中期の終盤に、50年排ガス規制適合したクルマがあり、そのクルマがインジェクションを搭載していたことを知る人は少ないのではないだろうか。ちょうど排ガス浄化システムのNAPSが装着されたタイミングでもある。 今回のクルマを改めて見ると、エンジンルームにあるエアクリーナーボックスの位置がラジエーターの前に配置されているのが分かる。キャブレター仕様はエアクリーナーボックスが内側に配置されているのだ。後期モデル同様にマフラー形状が大きく変わり、排ガス規制適合車であることが分かる。 フェアレディZはそのクルマとしての特性から、オリジナル状態を維持しているクルマも少なく、今回のような希少性のある個体が当時の姿で残っていることはとてもまれだ。 「フェアレディZはいじってあるクルマが多いので、私はオリジナルにこだわっていました。何年も探しましたが、ここまでのクルマに出合うことはありませんでした」とオーナーは語る。 クルマを手に入れてからはホイールとタイヤを交換。ホイールは当時のフェアレディZ432が履いていたマグネシウムホイールを模した復刻モデル。タイヤは当時のパターンを再現したものを履かせている。手をかけるのはこれで一旦終了。あとは現状を維持し、オリジナル状態で残していくだけだという。水洗いはせず、雨の日は走行しない、とその思いは徹底している。 オーナーは他にも1972年式スカイライン、1974年式セリカリフトバックを所有している。今回のフェアレディZで乗ってみたかったクルマはすべて揃った。もう当時のクルマが増えることはないだろう。クルマは自営業のタイヤショップに当時のままの姿で置かれ、美しいスタイリングと新車のような輝きで、来店するお客さんを迎えている。当時を知る世代は懐かしさを、若い世代は新しさを感じて、会話もはずんでいる。何よりも、その美しい状態を維持していることから、オーナーの人となりがにじみ出ているようで、お客さんも安心して、タイヤのメンテナンスをお願いすることができるのだ。 これからも同じように店頭で人を迎え、そして人をつなぐ役割を続けていくクルマたち。その努めがあるからこそ、S30フェアレディZはいつまでもここに残るのだろうと確信してしまう。 主要諸元 Specifications 1975年式 日産 フェアレディZ(A-S30) 全長×全幅×全高 4115mm×1630mm×1295mm ホイールベース 2305mm トレッド前/後 1355mm/1345mm 最低地上高150mm 室内長×室内幅×室内高 820mm×1390mm×1075mm 車両重量 1115kg 乗車定員 2名 登坂能力 tanθ 0.46 最小回転半径 4.8m エンジン型式 L20E型 エンジン種類 水冷直列6気筒SOHC 総排気量 1998cc ボア×ストローク 78.0×69.7mm 圧縮比 8.6:1 最高出力 130ps/6000rpm 最大トルク 17.0kg-m/4400rpm 変速比 1速3.592/2速2.246/3速1.415/4速1.000/後退3.657 最終減速比 3.900 燃料タンク容量 65リットル ステアリング形式 ラックアンドピニオン サスペンション 前後ともストラット式独立懸架・コイル ブレーキ前/後 ディスク/リーディングトレーリング タイヤ 前後とも6.45H14-4PR 発売当時価格 137万円 初出:ノスタルジックヒーロー vol.192 2019年4月号 (記事中の内容は掲載当時のものを主とし、一部加筆したものです)
Nosweb 編集部