川本三郎 私が選んだBEST5(レビュー)
佐多稲子著、佐久間文子編『キャラメル工場から 佐多稲子傑作短篇集』は、その落着いた文章が懐しい。 苦労して育った作家だけに昭和戦前の「働く女性」を生き生きと描いている。 キャラメル工場で働く少女、子どもを育てながらカフェで働く女性。旅館で働く少女が故郷から「ハハキトク」の電報を受け取る「水」はとくに逸品。 日本の大人の男は戦国武将や幕末の志士に憧れる英雄志向型と、他方、永井荷風やつげ義春のような市隠に憧れる世捨人志向型に大別出来る。世捨人型の元となったのは西行だろう。
寺澤行忠『西行 歌と旅と人生』は西行研究の第一人者が広い読者向けに西行の魅力を語った好著。旅に出たくなる。 [レビュアー]川本三郎(評論家) 1944年、東京生まれ。文学、映画、東京、旅を中心とした評論やエッセイなど幅広い執筆活動で知られる。著書に『大正幻影』(サントリー学芸賞)、『荷風と東京』(読売文学賞)、『林芙美子の昭和』(毎日出版文化賞・桑原武夫学芸賞)、『白秋望景』(伊藤整文学賞)、『小説を、映画を、鉄道が走る』(交通図書賞)、『マイ・バック・ページ』『いまも、君を想う』『今ひとたびの戦後日本映画』など多数。訳書にカポーティ『夜の樹』『叶えられた祈り』などがある。最新作は『物語の向こうに時代が見える』。 協力:新潮社 新潮社 週刊新潮 Book Bang編集部 新潮社
新潮社